話が終わっても、しばらくマルカは何も言えなかった。
 驚愕の表情を浮かべて、満月の顔をじっと見続けている。
 嘘をついている顔では無かった。
 誇らしげに。そしてどこか、寂しそうに。
 満月は微笑んでいた。
 「そんな……事が……」
 二人もまた、自分と同じく心に闇を抱えていたのだ。
 いや、自分以上の壮絶な過去であった。
 「紛れもない事実です。ご主人様は……全てを、失われました。
 愛する人を亡くしてしまったご主人様の心は……人の愛し方を、お忘れになってしまったのです。
 マルカにはあの方が、ただ情欲のままに私とマルカを犯しているように見えるかもしれません。
 ですが……それは、違うのです。ご主人様は、あのお方は……」
 「ここかーっ!!!」
 バターンと扉を勢い良く開き、ハルが雪崩れ込んできた。
 寝間着一丁、スリッパも履かずに冷たい廊下をあちこち走り回っていたらしく、マルカの姿を見るや否や勢い良くベッドにダイブを決める。
 「ご主人様っ!?」
 「あー冷たい冷たい冷たい!! 満月!! 足冷たい!! あっためてくれ!!!」
 「かしこまりました。膣と肛門でよろしいですね」
 「普通に暖めろ!!! 手でええわ!! 」
 満月はもぞもぞとハルの足元に潜り、足を擦り始めた。
 ハルの方はおーさむちょーさむと言いながら、目の前にいるマルカを抱き寄せる。
 「ごめんなマルカ。……寒かったんだよな。先にしっかり捕まえてやるべきだったか」
 「私こそ、変な事言い出してすみませんでした。ご主人様の気持ちも知らずに、自分だけ不幸みたいに……」
 「……満月から聞いたんか。まあ、気にすんなそんな事。俺とマルカじゃ歳も違うしな。
 ったく、それにしても情けないったらありゃしねぇ。マルカを追いかけて見つけられねぇし恥ずかしい過去は暴露されるし……」
 「……申し訳ございません、ご主人様」
 足元から聞こえる声を、足先で突っついて笑う。
 「謝んな満月。よくマルカを……見つけてくれた。風邪引いちゃ可哀想だしな」
 「……はい」
 主人の足を、胸元で温める。
 その柔らかい感触も相まって、先程まで寒さで縮こまっていたハルの陰茎が膨らんでいった。
 「……ほんと、情けねぇ。格好もつかねぇよ。ボッキするタイミングじゃねーっつーに」
 「でも……ご主人様は、ちゃんと私を見つけて、抱きしめてくれたじゃないですか。
 とっても、あったかいですよ」
 嬉しそうに笑うマルカを見て、ハルの表情も綻ぶ。
 すっかり元通り……とはいかないが、さっきまで壊れかけていた少女は落ち着きを取り戻していた。
 「すまん……本当にこんなタイミングですまん。ちょっと満月に処理させるから待っててくれ」
 先程、一度マルカの裸体を見てお預けを食らっていたハルの体は、小さな体の温もりと柔らかい香りで獣と化していた。
 流石に、マルカに情欲をぶつけるわけにもいかない。この状況下で。
 「満月。早抜き頼む」
 「承知いたしました」
 満月はすっかり大きくなったそれを咥内が当たらないように大きく口を開いて奥まで招き入れる。
 それをゆっくりと閉じるとハルの陰茎を柔肉が隙間なく包み込んだ。
 いきなり絡みついたので頭がわかっていてもハルの体はびくんと驚き跳ねる。
 そして。
 「――じゅるぽっ」
 「ほうっ……」
 口淫にしてはかなり大きい、肉がうねり獲物を締め殺すような艶かしいと言うよりは生々しい音と、ハルの呻き声が同時に響いた。
 満月はむくりと頭を上げ、口の中にたっぷりと溜まった精液をいつものように一息に飲み干す。
 「ご馳走様でした」
 と彼女は満足気な顔をしているが。一方でワンアクションにて射精させられたハルはのけ反ってビクンビクンと痙攣していた。
 陸に上がったタラみたいだな、とはマルカの感想である。
 「きっっっっ……くぅぅぅぅ……」
 気持ち良さそうと言うよりは、苦しそうにすら見える。
 当然と言えば当然だ。
 三回分の射精を一発で絞り出される満月の淫技の一である。
 それは確かに天にも上る快楽ではあるが、男の体に負担が大きいのだ。
 ある程度鍛えられているハルで無ければ失神は確実。心臓が弱ければショックで文字通り昇天することすらあり得る。
 勿論、主人相手にそんな事は間違っても起こさないのが満月であるが。
 「……はいお待たせしましたお嬢様。これで馬鹿ちんこを黙らせたので真面目な話ができます。あ満ちゃん、足はもういいよ。こっちこいこっち」
 「む、無理しないで下さいよ……」
 満月がのそのそと這ってきて、マルカの後ろへとついた。
 すっかり定位置である。
 
 「いいか、よく聞けマルカ。
 俺はさ、満月に散々迷惑かけておいて……いや、迷惑かけてるからこそ、今幸せなんだ。
 絶世の美女で何でも言うこと聞いてくれるダメ人間製造機の満月に、どの穴に入れても痛くないくらい可愛い妹のマルカがいるんだ。
 しかもどっちも俺の事が大好きでさ、性のはけ口までなってくれるんだぜ。男として、これ以上の幸福はねぇよ。最高だ。
 ……でも。でもな。
 俺はふと思うんだよ。考えてしまうんだよ。
 この屋敷に俺の親父やおふくろ、姉貴に日向、じーちゃんやばーちゃんがいたら、どれだけ幸せなんだろうって。
 俺は欲張りだからさ、寂しいんだ。家族が死んだからこの幸せが手に入ったって言うのに、あの日に戻れたらって何度も考えちまうんだ。
 何度も、何度も……もう、戻れるわけねぇのに……」
 
 喋っている内に、自然にハルの頬から熱いものが伝って落ちた。
  
 「お前に欲情しといて何言ってるんだって話だが、お前はさ、俺にとって凄く大事な存在なんだ。
 俺の心は歪んでる。きっと、愛情も歪んでる。だからお前を傷つけるかもしれない。
 でも、お前が必要なんだよ。もうマルカを知ってしまった。お前がいなくちゃ寂しくて死にそうなんだ。自分の事をいらない子なんて言わないでくれ……」
 「ご主人様……ご主人様の愛情は、歪んでなんていませんよ」
 マルカはハルを慰めるように彼の頬を撫で、優しく口付けをした。
 「私はご主人様に、いっぱい愛情を貰って……凄く嬉しかったし、楽しかった……歪んでるなんて、言わないで下さい」
 ここに来てからの事を思い出す。
 たくさん遊んでもらって、たくさん抱きしめられて、たくさん愛してもらった。
 まだ月日はそれほど経っていないけれど。マルカにとってここでの生活は、とても心が安らぐものだった。
 人間として。家族として扱ってもらえた。
 「マルカ……頼む。俺の……俺達の、家族になってくれ……離れないでくれ……っ!!」
 涙ながらに懇願するハルに、マルカも眼の奥から感情が押し寄せてきた。
 「なに馬鹿なこと言ってるんですかぁ……ご主人様……!
 私は、拾ってくれたあの日から……お風呂で抱きしめてもらったあの時から……ずっと……
 二人の、家族ですよぉ……!」
 「……!」
 それを聞いた満月も、メイドの仮面が剥がれてしまいそうになった。
 愛しい妹を。ずっと離さぬように、後ろから包み込む。
 

 心の中の欠けた思い出を埋めることはできないのかもしれない。
 でも、新しい思い出を作ることは、きっとできる。
 ハルはそう信じ、今ある幸せを抱きしめた。
 どこにも行ってしまわないように。