「ま、楽しんでくれたみたいで良かった。誕生日計画は大成功だな」
「はい。流石はご主人様です」
 夢の中でもお嬢様をしているのか、にへりと可愛らしい笑みを浮かべているマルカ。
 その寝顔を眺めながら、ハルは整っていた自分の髪を掴んで、くしゃりと散らす。
 三日月とハルの疑似BL鑑賞、三日月から満月へと変化するストリップショー、そして締めにハルと満月に奉仕させると言う金持ちの性道楽を心ゆくまで堪能したマルカは遊び疲れてぐっすりと眠っている。
「しっかし、クリスマスはどうすっかな。今回張り切りすぎて何与えてもインパクトに欠けそうだ」
 マルカはサンタクロースの存在を信じる歳でもないし(そもそもクリスマスにプレゼントを貰ったこともない)、短期間で妙なサプライズをしても効果は薄いであろう。
 日付が変わりお嬢様からメイドへと転落した妹の頬をつっつきながらも、ハルはプレゼントの内容について思案する。
「なんかいいもんある?」
「マルカは何を与えても喜ぶ子ですが……そうですね、ペットなどいかがでしょうか。私やご主人様に積極的にスキンシップを求める彼女にとって、新しい家族はこれ以上ないプレゼントかと思われます」
 満月の提案に、ふむ、とハルが考え込む。
「まあマルカ自体が俺のペットのようなもんだがな」
 形式上とは言え、館内のヒエラルキーで一番下は彼女である。今日の楽しみようを見るに、自分より下の存在が欲しいか欲しくないかと聞かれれば、やはり欲しいと答えるだろう。
「何がいいかなー。犬か猫か……鳥かハムスターなんかもありか?」
「彼女の性格を考えると、抱きかかえられるような生き物が望ましいと思われます。温もりを求める子ですので」
「抱きかかえられるような、大きいのか……」

 曇り空の下の街は、日本とあまり変わらないようなクリスマスの彩りに包まれている。
 その中を一人、ハルは歩いていた。
「はーさっみぃさみぃ。最高気温が氷点下とか舐めてんのか旧ソ連」
 帽子に耳当て、手袋にジャケットのフル装備だが、満月は連れていない。
 マルカが一日中彼女とべったりしたいと言い出したので、館に置いてくることにした。
 日本に比べ治安が良くないとはいえ、ロシア語はネイティブ並に話せるし移住したてと言うわけでもない。ので、旅行者を狙った犯罪に引っかかるようなことはしない。
 それよりも気がかりなのは、満月といちゃつきたいとは言っても自分といちゃつきたいとは言わなかった事である。
「あいつの中でおっぱいは大きすぎるな。ちんこでは勝てなかったよ……」
 マルカが幸せそうで嬉しい反面、やはり母性が必要な歳かと敗北感に打ちのめされるハル。
「まーあいつ散々ちんこに泣かされたり中出されたりしてきたわけだしな。そこらへんはしゃーないか」
 実際の所、どちらかと言えば内気なマルカは異性に積極的にくっつくのは気恥ずかしく思っていると言う内情も大いにあるのだが、それにはハルは気付かなかった。
 除雪された道を踏みしめながら、ペットショップへ向かう。
「なーにがいいかなー。犬みたいな性格してるし犬がいいかな、大型犬とか」
 寒さに強いシベリアンハスキーなどいいかもしれない。マルカが大喜びで抱きつき、何かにつけてもふもふするのが目に浮かぶ。
 そう思う一方でハルは、オスのシベリアンハスキーの性処理を満月にさせることを考えて股間をふっくらとさせた。
「やっぱ獣姦させるならメイドだな……!」
 倒錯的プレイによる性病や後遺症(猟奇性のあるプレイは本人はOKを出しているがハルがやらない)の心配など皆無の満月になら、安心して任せられる。
「そうと決まればやっぱりわんこを……。……?」
 ハルは歩みを止め、今しがた通り過ぎた側道へと目を向ける。
 建物の影になっている、薄暗い路地だ。そこに小さな何かが座り込んでいた。
「……」
 金髪の、少女。
 マルカよりも年下であろう子供が、大した厚着もせずに寒空の下にうずくまっている。
(家出娘、いや……孤児か?)
 ストリートチルドレンというやつだろう。
 あまり外出することもなく、一人の時は特に人通りの多く治安の良い所以外は避けるようにしていたため、ハルにとってはあまり見る機会はなかった。
 薄汚れた、とまではいかないが、服は着古されたものであり、袖から除く小さな手は震えていた。
 表情は見えないが、寝ているわけでも死んでいるわけでもなさそうだ。
 ハルは一応美人局的な罠を警戒し辺りを眺めたが、彼女以外の気配はない。
(ま、最悪有り金全部出せば命までは取られないだろ、たぶん)
「どうした嬢ちゃん、マッチでも売ってんのか?」
 走ればすぐに元の通りに戻れる距離から、ハルは声をかけた。
 少女はぴくりと反応し、顔を上げる。
 美しい少女だった。やや煤けた金髪はしっかり揃えてあるし、青の瞳は未だ生への執着を諦めていない光を持っていた。
 肌は雪のように白かった。元来の色に加えて、栄養が十分に行き届いていないせいもあるかもしれない。
 やや吊り目の生意気そうな眼でハルを見て、かさかさに乾いた唇から声を発した。
 真っ白な吐息を伴いながら。
「そんなもんあったらもう使ってるよ」
 声には覇気が無かったが、顔の方は期待するように僅かに微笑んでいた。
「あたしなら少しはあっためてあげるけどガキに興味ある? お金次第でサービスしとくよ。泊めてくれちゃったりするなら、その間は入れ放題の出し放題、好きに使っていいからさ」
 彼女に声をかけるのは、大概そういう輩だ。そして彼女はそれを生業としている。
 孤児が生きるために、貞操観念など何の役にも立たない。
「あるある超ある。それに金なら沢山あるぞ」
「マジで!? ラッキー、クリスマスにまともなめしが食える!」
 嬉しさのあまりぴょんぴょん跳ね回る少女。それを見てふむとハルは考え込んだ。
(……人間でも、マルカなら喜びそうだな)
 もっとも、彼女はペットではなく新しく出来た妹と認識するだろうが。
「お前、名前は?」
 八重歯を見せて笑う彼女に尋ねる。
「ん? あたし?」
「ああ」
『客』に名前を聞かれることなど無いのだろう、不思議そうな顔で少女は眺めてきた。

「ソフィアだよ。そんなん聞いてどうすんの?」
「いや……興味があってな。俺はハルだ、よろしくソフィア」
「? うん」
 こうしてハルは、本来の目的を達成した。