仮入居、と言った形ながらも屋敷の一員になったソフィア。
 は。
「ちんぽ欲しい……セックスしたい……」
 と欲求不満であるのを呟きながら部屋の床に寝転がっていた。

 諸事情により、幼いながらも性快楽に嵌ることとなった彼女はハルのような性依存症、までは行かずともそれに近しい好色少女であった。
 男に抱かれる事によって快楽、そして安心感を得る。
 それを一週間も禁止と言われたら、幼い身体の内にある熱は、重りから外された風船のようにふよふよと漂う。
『二度とセックスできない身体になりたくなければ次来るまで指一本触れるな』
 と女医に固く釘を刺されているため、自分で慰めることもままならない。
 結果としてソフィアは三日目にしてちんぽちんぽセックスセックスと淫猥な言葉を吐きながらベッドから落ちてそのまま寝そべってくねくねする謎の生物と化していた。
 衣食住は非常に高いレベルで保証されており、何もしないでも生きていけるので時間を持て余すのは尚更。
 それだったらマルカと遊べば退屈しのぎにはなるはずである……が、現時点で二人の活動時間はズレが生じていた。
 夜寝て朝起きる健康的な睡眠を送っているマルカに対し、ソフィアはつい最近まで夜から身体を売っていたので、職業柄昼過ぎか夕方まで眠る事が多かった。
 今日も柔らかいベッドが心地よくて眠りすぎ、起きた時には午後の三時過ぎと言った具合だ。
 しかも、のそのそと起きてダイニングに置いてあった自分の朝食と昼食をむしゃむしゃ食べて、満腹になったところでまた昼寝を始める。
 そんなことをしていたら夜に眠れるはずもない。ところで今の時刻は午前2時である。 
「だんな起きてるかな……」
 暇も性欲も持て余している彼女は、男性を求めて部屋を出た。
(セックスはダメだって言ってたけど、手でしごくくらいなら大丈夫でしょ)
 口も膣も、おまけに肛門も使えないとなると彼女の知識の中にはそれくらいしか選択肢がなかった。
 できることなら自分も性感を得て愉しみたいが、それができないなら男を悦ばせたい。

(そうすれば、だんなも……もっとあたしに優しくしてくれる)
 彼女にとって男は商売相手であると同時に、媚びへつらうべき相手であった。

 道を覚えるのが得意なソフィアは一回説明されたっきりの状況で難なく主人の部屋に辿り着く。
 軽くノックをし、返事が返ってくるとドアノブに手をかける。
「だんなー……」
「ソフィアか。怖い夢でも見たか?」
 間接照明が淡く光る中で、裸の男がベッドに寝ているのがわかった。
 そしてその隣には寝息を立てている少女。それを挟んで、もう一人女性……。
 つまり、この屋敷内の人間全員が集った事になる。
(あたし以外この部屋で寝てるんだ。せっかく広いんだから別々に寝ればいいのに……あ、だんなが二人とも相手してんのか。ぜつりんだなー)
「ううん、眠れなくて……」
 と答えると、裸の女性が招いてきた。
「あら、ではこちらへいらっしゃい」
「……」

 ソフィアは、このメイドが苦手だった。
 初対面では自分が悪かったとは言え、一歩選択を誤れば殺すと言った雰囲気を出された。二回目の遭遇では唐突にディープキスをされた。それも、これ以上なく強烈なのを。
 意味不明で、何を考えているのか全くわからない。その上おぞましいほどの美貌を持ち、料理は恐ろしく上手で、隙のない完璧人間ですとでも言いたげな、女。
 まるで自分に甘えろとでも言いたげな――わけのわからない、変な女。

 ソフィアはそれを無視して、ハルの元へと寄った。
「だんなー、ちんぽしごいてあげよっか? 手でなら、大丈夫だよね」
「大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば大丈夫だろうが、一回やったら次は口で次はまんこでってなるのが目に見えるぞ。我慢しろ我慢」
 と言って背中を優しく撫でられる。
「むー、いいじゃんよぉ……」
 男に奉仕することによって不安感を拭うソフィアは食い下がろうとペニスに手を伸ばすも、ハルに抱きかかえられてほい、と渡されてしまった。
「寝かしつけてやれ」
「かしこまりました」
 苦手とする、女に。
「え、ちょっと……」
 無縫となったメイドに抱かれ、肉の柔らかさに衝撃を感じるソフィア。
(え、なにこれ……)
 抱かれるどころかロクに触れることもなかった女性の身体を肌で感じ、底なし沼に踏み込んだような不安感を覚える。
 そして同時に、遺伝子に刻まれていたような、正体不明の安心感も。
 それらが混じった心地よい心地悪さに戸惑っていると、暗がりの中で女は顔を近づけてきた。
(あ……)
 視覚よりも強く、嗅覚が反応する。
 ふわりと自分の肌を撫でた髪から漂う、ラベンダーの香り。
 前におぶられた時も、この匂いをずっと嗅いでいたのだろう。眠っていてもわかるほど強く印象に残っている。
 何故なら、そのもっと前、ハル達と出会うより何年も前、記憶も残っていないような昔に。
 同じ香りの柔らかい髪に、触れていたような気がするからだった。
 唇に、なめらかな感触。
 無理矢理気絶させるようだった前のそれとは全く別物の、親が子にするような優しいキスだった。

「おやすみなさい、ソフィア」

 その言葉と香りは催眠術のように、ソフィアの全身を脱力させていく。
 眠りへと、誘う。
(わけわかんない……なんだよ、なんでこんなに――)
 瞼が重くなる中、反抗心にも似たソフィアの想いは飴のように溶けていった。