フェアリー・テイル(無期限休載)

 アークザイン城下町オーガス通りは、今日も喧騒に包まれていた。
 活気のある露店街を無邪気に走り回る子供達。それを優しく見守る大人。
 笑顔溢れる『表通り』の中を、一人暗い表情で歩いている男がいた。
 (……居心地が悪いな)
 男の名はグロウ。身の丈の割りにはやや痩身であるが、引き締まったしなやかな筋肉を持っている。武芸に優れるであろう事は彼の得物からも想像できた。
 身の丈を優に超える騎乗槍(ランス)の中に、小型の投擲槍(ジャベリン)が四本、そして対となる三又槍(トライデント)と方天槍(ハルバード)。
 聖合金(ミスリル)製であるため見た目より遥かに軽く強靭ではあるものの、並の腕前ではとても扱えない代物。
 それらを一纏めにして縛り、担いで歩く姿は凄腕の槍使いか、あるいは腕自慢の無頼漢にしか見えない。
 ……はずだったが、鎧を売っぱらった今となっては、たまに行商人と間違えられる始末だ。
 財布の中身をちらと見る。傷の無い全身鎧を売却したおかげで、しばらく食うには困らない金額だ。
 既に身は天涯孤独。父も母もいなければ頼れる知人も既にいないが、傭兵にでもなれば生きてはいけるだろう。
 (……生きてどうする?)
 既に自分の存在意義は抹消された。誰も自分を必要としていない。
 人生に何の光も見出せないまま、何処へ行くでも無く。グロウは死んだような目をしてふらふらと歩き続けていた。
 そこで唐突に、後ろからぐしゃ、と言う何かが潰れたような不穏な音と、男の野太い怒号が響く。
 「てめぇ、やってくれたな……! 畜生の分際で盗みを働くたぁ舐めた真似しやがる!」
 どうやら、何者かが窃盗を試み、バレて捕まったらしい。それも、口ぶりからして人間以外の犯行だ。
 グロウは立ち止まり、振り向いて何の動物なのか確かめようとする。が、振り向き終わるより早く、そのか細い声が耳に入ってきた。
 
 「ご、ごめんなさい……ゲホッ、私、三日も何も食べてなくて……」
 
 懇願するその声色は、少女のそれだった。
 元は美しい山吹色であったであろう長髪は煤けてボサボサになり、翠の瞳からは涙が溢れている。
 手足は人形のように細く、その体躯もまた人形のように小さい。背中にある半透明の羽根は、その片方が千切れていた。
 (妖精か……)
 一昔前はよく見かけたが、最近は随分とその数を減らし、値段も少々高くなった。
 愛玩動物として飼われたものの、懐かないので捨てられたり、戯れ半分で殺される事が頻発した結果、絶滅寸前とまでは行かないものの、すっかり見ることが少なくなったのだ。
 「何も食ってなかったらパンを盗んでいいってのかぁ!? 妖精ってのは随分手癖が悪いんだなぁおい……へし折ってやろうか?」
 とてもパン屋の主人とは思えぬ形相で、妖精を握り締める店主。
 ギリギリと締め付けるその手は、妖精の身体ごと潰してしまう勢いだった。
 「がっ……! 痛い! 痛いよぉ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!」
 泣き叫び、許しを懇願する妖精。だが、店主はやめようとはしない。
 「ああ、許してやるよ……地面に落ちたパン代を払ってくれたらなぁっ!!」
 金を持っていない事を知りながら、尚も彼女を虐げる店主。
 周りの人々は、その光景を横目で見て、通りすがるだけだった。
 子供は「あれ妖精だよ、妖精!」と母親の裾を引っ張り、「はいはい、今度買ってあげるからね」と母親は無関心を貫く。
 その間にも、妖精の脆い骨は軋みを上げ、ひび割れて、今にも折れそうになっている。
 そこにいる誰も、哀れな妖精を助けようとはしなかった。
 いや、彼女を哀れと思う者すら存在しなかった。


 「――銀貨一枚で足りるか? そのパンの代金は」
 
 槍を手にした男を、除いては。
 獄卒の如き面をしていた店主は、一瞬きょとんとした表情を浮かべ、すぐに営業スマイルをグロウに向けた。
 「はいはい! どうもお買い上げありがとうございます!」
 既に店主の思考から消えうせた妖精は、手から離れて地面に落とされた。
 「がはっ……」
 大雑把に計算しても、銀貨一枚でパンが十個は買える。
 釣りを出すべきか他のパンを一緒に包んで渡してしまうべきか考える店主をよそに、グロウは店頭にあったパンを一つ掴み、齧りながらその場を去った。


 (……柄にもないことをしてしまったな)
 店主の人格とは裏腹に芳醇で美味なパンを食べ終え、グロウは公園のベンチに腰掛けた。
 中心にある噴水は、人魚を象った像から湧き出ている。
 人間に乱獲されその姿を見る事もなくなった人魚の銅像は長い年月を雨風に晒され、今では表情はおろか顔のつくりさえよくわからなくなっていた。
 いたたまれなくなって、空を見上げる。
 雲ひとつ無い青空に浮かぶ太陽は全てを照らし、幸せをもたらしてくれる。『表にあるもの』全てを。
 先ほどの大通りを二本横に行った先……貧民街は、もう太陽は照らしてはくれない。
 力を、あるいは金を持つ者にのみ、この世界は優しい。
 例え魔物の大群が攻め込んできても、税金を払ってさえいれば安全は保障されたようなものだ。
 持たざるものは、踏みにじられ、虐げられ、食い漁られ、惨めに死んでいくのみだ。
 「あのっ」
 そんな事を思ってると、下からの声に呼びかけられる。
 視線をやると、そこには先程の妖精がおどおどした顔で浮遊していた。
 姿はボロボロになってはいたが、羽根はしっかり生え変わっている。どうやら、餓死は免れたらしい。
 「さ、先程は助けて頂きありがとうございました!」
 ぺこりとお辞儀をする、掌大の人もどき。
 本来は相手の顔色を伺うような生き物ではないはずだが、今ではすっかり人間様の玩具か、害獣扱いである。
 (……哀れだ)
 「ああ」
 とだけ答えて、グロウは立ち上がり、歩き出した。陽は西へ傾き始めている。
 (少し早いが、宿でも探すか。仕事探しは明日からでもいいだろう。今は気が乗らない……明日になって、気分が乗ればいいが)
 心の中で苦笑してみるが、自分の顔は全然笑っていないことに気付いた。
 随分と、重症のようだ。
 ふよふよ。
 グロウは恋仲だった女の顔を思い浮かべ、その次に友だった男の顔を思い浮かべる。
 もう、思い出したく無い。無いのだが、すぐに忘れることなどできないだろう。
 ふよふよ。

 「……何の用だ?」
 尚も付いてくる妖精に、グロウは冷たい目を向ける。
 決して怒っているわけでは無かったのだが、その暗い表情は妖精には不機嫌なものとして映った。
 「ひっ……! ご、ごめんなさい!」
 「いや、別に怒っているわけじゃない。礼なら先程聞いた、帰っていいぞ」
 「……私には、帰る場所が無いんです。行く当ても無く、ご存知の通りお金もありません」
 妖精の表情も、陰りを見せる。
 「望みとあれば何でもします。どうか……私をお仕えさせては頂けないでしょうか?」
 「いいぞ」
 「え」
 即答した事に驚いたのは、妖精よりもむしろ答えたグロウ自身だった。
 何もかもを失い、人生の意味すら見えず、全てがどうでもいいと思っていた所に訪れた、小さい出会い。
 奥底で求めていたのは、余計な懸念をせずに愚痴を吐き出せる相手だったのかもしれない。
 「……ただし、安定した給金が出る保障は無い。ご覧の通り職無しなんでな。飯は分けてやるよ。俺が野垂れて死ぬまでは、な」
 「は、はい! よろしくお願いしますご主人様!!」
 「……その呼び方は止めろ。俺の名はグロウだ」
 「はい、グロウ様! 私はティティと申します!」
 その晴れやかな笑顔に、グロウは昔聞いた伝承を思い出す。
 《妖精は、太陽の使い……豊作をもたらす、人間たちの大切な隣人。
 彼女達の手助け無しに我々の繁栄は有り得なかったし、これからも彼女らがいなければやがて人は衰退の一路を辿るだろう》と。
 言い伝えは、見事に外れた。
 数が増え、知恵を携え、力も付けた人間達にとっては、彼女等は遥か格下の生物として見なされていくのも当然だった。
 (……そんなに偉いのか、人間は)
 誰も疑いすらしなかった人間の尊さに、グロウは疑問を覚えていた。
 いや、きっと疑った人間はいたのだろう。だが彼等は人間として扱われなかった。 
 グロウもまた、程度こそ違えど『持たざるもの』であった。
 だが。
 「ああ……よろしくな、ティティ」
 今となっては、そっちの方がずっと正常に見えた。きっと、正常なのだろう。
 グロウはそう、信じることにした。


 「親父、部屋は二つ空いているか」
 「二つ、ですかい? お連れ様がいらっしゃるので?」
 「ああ」
 と言って顎で横を示す旅人。
 宿の主人は左を見る。妖精と目が合った。
 視線を戻す。冗談の顔はしていなかった。
 念の為もう一度、示された方向を見る。妖精が旅人の顔を凝視している。当の本人ですら、明らかに困惑した表情をしていた。
 「……二部屋でよろしいのですね?」
 頷くグロウ。
 「ちょ、ちょっと待って下さいグロウ様! 何で二部屋取るんですか!? 妖精ですよ私!」
 ツッコミを入れたかった宿の主人は妖精が言いたいことを言ってくれて満足する。
 「何でも何も、お前は女だろう」
 さも当然と言った様子でグロウは答えた。
 「私はそんな事構いませんって!」
 「俺が構うんだ」
 そう言い切るグロウに対し、ティティは言いにくそうな顔をしながらも、
 「……私、一人じゃ扉を開けられないんです……」
 とこぼす。
 「…………親父」
 「はい」
 「部屋は一つ空いているか」
 主人は、用意していた鍵を差し出した。



 と、そんなやりとりの末、一人と一匹――グロウにとっては二人――は、二階一番奥の部屋でくつろいでいた。
 「にゃー……久しぶりのベッドだー……」
 ぽふんと可愛らしい音を立て、ティティがメイクされたベッドに飛び込む。
 「うへへー……」
 久方ぶりの柔らかい寝床に、妖精の顔は歪む歪む。
 と、そこでハッと気付き、無表情のグロウに慌てて弁明を開始した。
 「な、なーんて冗談ですグロウ様! 私はそこのデスクにでも寝転がりますから! グロウ様は是非ベッドをお使い下さい!」
 (表情の豊かな奴だ)
 「寝たいのならベッドで寝ればいい。俺も入るから同衾になるが」
 「ど、同衾……」
 ティティの顔がかあっと朱に染まる。丁度外の風景と同じ色合いだった。
 「親父が気を効かせたのかは知らないが、ベッドはダブルサイズだ。スペースは有り余っている」
 読み上げるように淡々と述べるグロウに、ティティは別の意味合いで恥じらいを感じる。
 「き、気にしてるのは私だけですね……」
 男女とは言え、所詮人間と妖精。普通に考えれば間違いなど起こるはずも無いのだ。
 「そんな事より、お前は服でも買ってこい。今日び犬でももう少しまともな服を着せられている」
 言われて初めて、ティティは鏡で自分の格好を確認する。
 元がどんな色だったのかわからないほどに煤けた袖なしのドレス。
 膝下まであるスカートは一部分が裂けてスリットのようになってしまっていた。
 「あらら……一張羅だったんですけどね、これ。もう魔力も残ってないか……」
 服のあちこちを見回して、ティティはため息を吐き出した。
 「魔力? 服に魔力が込められているのか?」
 「はい。妖精は花を主な魔力源としているのはご存知ですか?」
 聞いたことがある。
 「ああ。確か、家柄によって違う花を依代としているんだったか」
 「お詳しいですね。その通り、花は生えてるものならなんでもいいと言うわけにはいきません。
 そのため、妖精は衣類に魔力を貯めこみ予備のタンクとしているのです。魔力さえ残っていれば、妖精は基本的に死ぬことはありません」
 餓死は別ですけどね、とティティが苦笑する。
 「着替えても問題無いなら、来る途中に人形の店があったからそこで何着か見繕ってくるといい。金さえ出せば文句も言われないだろう」
 グロウは言いながら、財布をティティの方へ放る。ぼすんとベッドを揺らしたそれは明らかに彼女の体重より重い。
 「い、いいんですかこんなに」
 「一応言っておくが全部は使うなよ。さっきも言ったが俺は無職なんだ。俺の事を巨大な非常食だと思っていないのならそれなりには残しておけ」
 「わ、わかってますよ! まさか全部使うわけないじゃないですかー。あははー……」
 (……どうだか)
 一瞬ティティの目が金に眩んだのを、グロウは見逃さなかった。
 釘を刺しておかなければ宿代すら危うかったかもしれない。
 「荷物持ちは必要か?」
 「いえいえ! グロウ様の手を煩わせるまでもないです! 妖精は華奢に見えて結構力持ちなんですよ」
 よいせっと、と言いつつ彼女は財布の紐を手に巻いて羽ばたいた。
 羽ばたく速度は緩やかだ。彼女の言ったとおり、案外余裕があるらしい。
 「それでは行って参ります! 何か買ってくるものはありますか?」
 「特に無い……」 
 そこまで言って、グロウは思い出して付け加える。
 「いや、そうだな……花が見たい気分だ。買ってきてくれ」
 発言を聞き、しばしぽかんとした後に意味を理解したティティは心底嬉しそうににへらと笑う。
 「グロウ様~勘弁して下さい、好きになっちゃいますよぉ~私にそんな良くしてくれてどうするおつもりなんですか~? あ、ひょっとして私の身体が目当てだったり? キャッ、もうグロウ様ったらエッチなんだからぁ~でもでも、グロウ様にならいいかな? なーんて! なーんて!」
 「早く行け」
 グロウは体をよじらせている妖精を掴み、部屋の外に放り投げて鍵を掛けた。


 「……やれやれ」
 気が弱い妖精かと思ってたが、打ち解けたら中々どうしてウザ……賑やかで面白い性格だった。
 まさか金を持ち逃げしたりはしないと思うが。
 「まあ……いいか」
 あれが元々のティティ。おどおどして人の顔色ばかり伺うような態度は、生きるために必死だったのだろう。
 グロウにとっても、作られた仮面を被られるよりかは自然体で接される方が良かった。
 「…………もう、あんなのはごめんだ」
 次々と、光景がフラッシュバックする。
 勇者候補を集められた、寮での生活。
 楽しかった、彼女との日々。
 上手くやってると思い込んでいた、友との切磋琢磨。
 気にも留めていなかった、彼等と自分との家柄の違い。
 試練の果てに掴み取った、勇者の証。
 背後から何者かに殴られ、気を失い……慌てて向かった寺院で見た、勇者証明の儀式。
 そして、真相を聞くために向かった友の部屋で見た――

 「はぁ……はぁ……」
 気が付くと、グロウは己の分身を握りしめていた。
 これ以上無いほど張り裂けんが勢いで怒張するそれは、あの時の彼女に入ろうと暴れていたのと同じだった。
 「ユミルナ……!!」
 自分に見せたことの無い表情で、乱れる彼女。嗜虐的に嗤う、親友の貌。

 
 『! ああっ……グロウ……見ちゃ駄目……ぁ……見ない、で……』
 『……よお、落ちこぼれ。どうした、そんな所に突っ立って。見たいんなら近くに来いよ。
 
 ――友のよしみで見学無料にしてやるぜ、貧乏人』

 『…………き、貴様ッ……!! アルベリヒィィィ!!』
  

 「くそッ……!!」
 自身を扱く手に、力が籠もる。
 ……あの時投擲槍(ジャベリン)の一つでも持っていれば、何かが変わったのだろうか。
 いや、きっと何も変わらないだろう。
 全ては、決められていたシナリオ通りだったのだ。

 『ごめんなさい……ぁぁっ……グロウ……私は……んっ』
 『分際を弁えろ、グロウ。お前の家系じゃ、どうあがいてもユミルナと結ばれる道理は無いんだよ。
 ま、こいつは幸せにするから安心してくれ。伯爵の息子にして勇者の、この俺様がな。
 おーい、誰か。この不届き者を捕まえてくれ。……ご苦労。ああ、口を塞いだら縛って転がしておくだけでいい。追い出すのは朝にしろ。
 
 折角だし、ゆっくり楽しもうじゃないか。三人で、な』

 
 アルベリヒに覆い被され、見ちゃ駄目と叫んでいたユミルナが一際甲高い嬌声を上げた瞬間、自分も射精していた。
 悔しさに涙が出ながらも、この上なく自分が興奮している事に気付き。情けなさに愕然とした。

 そうしてあの日。
 グロウは親友と彼女を失い、国からは追い出された。
 全て、を失くした。
 今も自分の不甲斐なさを嘆きながらも、手を止めることはできない。
 (……いや、もういい。もう俺には何もない。プライドもへったくれも、全て捨ててしまった)
 この苦痛も悔恨も全て快楽に変えて溺れればいい。
 誰も、自分の事なんか見もしないし気にも留めない――
 と、そこで僅かに。視線を感じたグロウはカーテンを閉めたはずの窓へと眼をやる。


 「……………………。 ……!」
 
 カーテンの僅かな隙間から、こちらを除く小さな顔と目が合った。
 つかつかと窓に近寄りカーテンを開けティティが逃げる前に窓を開けてむんずと掴み、窓を閉めてカーテンも閉じる。
 実に2,3秒の早業だった。
 
 「おかえり」
 グロウの手には、力が篭っていた。
 「ご、ごめんなさい! つい出来心だったんです! まさかグロウ様がオナニーなさってらっしゃるとは痛い痛い!!
 本当はちょっと様子を見るだけだったのがグロウ様の痴態があまりにも美しくエロティックだったの痛い痛い痛い痛い!!!!」
 ティティが暴れるたびにガサガサと言うので見てみると、グロウの手の下からは彼女の倍ほどある買い物袋が伸びていた。
 「……買い物は終わったのか」
 グロウが手を緩め、妖精をベッドに無造作に放り投げた。
 「は、はい……買ってきましたよ、服も、花も」
 ティティはいそいそと体ごと袋に突っ込み、花を取り出した。
 大輪で鮮やかな、紫がかった桃色の花弁が広がる。
 「じゃーん! 我が家系の魔力源! ピンクの花びらは高貴の証! 私の相棒カトレアちゃんですっ!」
 「……切り花でいいのか」
 「はい。なんだったら茎が無くても大丈夫です。まあ所詮花なんて妖精様の栄養源でしかありませんから……ああごめんカトレアちゃん冗談だよ冗談」
 本気で話しているのかどうかわからない口調で、ティティは花に弁明する。
 「服も色々買ってきたんですよ! 露出凄いのとかありますよ! エロエロですよ! いやー最近の人形は凄いですね! やたら大人の男性が多いから何かあるとは思いましたが!
 見ますか! 着ますか! 着せ替えちゃいますか! なんだったらグロウ様の猛々しい立派なものを満足させてあげちゃったりなんか」
 「ちょっと黙れ」
 「ごめんなさい」
 ティティが平伏する。
 グロウは短くため息を吐き、それっきり黙りこくった。
 そしてティティは、気まずい沈黙と言うのが何よりも苦手だった。
 「えーーーーーーーっと……その……」
 が、何を言ったものかと窮する。
 自慰を覗いていた事がばれた後に、弾むような会話なとできるものではない。
 特に、グロウのような感情を表に出さないタイプなら尚更だ。
 ティティが頭を捻る。
 最悪、解雇されかねない失態だ。と言うかグロウだからまだ可能性で済むが、普通なら解雇されるような大失態だ。
 ここは何も言わないのが正解なのか、それとも……
 と、そこで口を開いたのはグロウの方だった。
 「……お前が見た通り、俺は情けない男だ」
 「へっ?」
 「俺は親友と思っていた男に、好いていた女を奪われたんだ」
 一度言い出したら、言葉は止めどなく湧き出てくる。
 もうプライドは捨てたんだ。全部話してしまえばいい。
 その結果見限られても、そっちの方が気が楽になるくらいだ。
 ただ、話を聞いて欲しかった。誰にも言えなかった、話を。
 聞かせられるのは、小さな妖精にだけだった。
 「――そうして俺は、今や槍を持っただけの無職。女を寝取られた過去を思い出して手淫に耽る、ただの愚図だ」
 話を終えて彼女の表情を見てみると、以外にも……ティティは、悲しそうな表情をしていた。
 「…………お辛かったんですね」
 「……ああ、話せて少しすっきりした。変な話を聞かせて悪かったな」
 「いえ。話して下さってありがとうございます。……グロウ様」
 「何だ?」
 ティティはぼろぼろになった服を脱ぎだし、丸裸になった。
 人間のサイズに拡大したとしても、身体は小さかった。
 胸の膨らみはわずか。産毛の一本も生えていない股には、縦に筋が通っている。


 「私でよろしければ、ご主人様を慰めて差し上げます」 
 今度の表情は、真剣そのものだった。
 
 「……何を言っているんだ、お前は」
 妖精とは言え、外見の造りは羽以外は人間とほぼ同じ。
 グロウは幼い裸体から目を背ける。
 「余計なおせっかいである事はわかっていますが、このままではグロウ様があまりにも不憫です。
 過去が覆らない以上、せめて欲望を発散させるものが何か無いと……グロウ様は、きっと壊れてしまいます。
 ……それにはっきりと申し上げますと、私はその女性に嫉妬しています。私も……いや、私がグロウ様に依存されたい、グロウ様の女になりたい。
 どうか、私にグロウ様のお相手をさせて下さい。私なら、どんな事でも受け入れます」
 「……一応、俺の事を気遣ってくれている事には感謝する。だが、そもそもの話……お前の身体じゃ、無理だろう」
 グロウは目を戻し、彼女の身体を観察する。
 体長は手のひら大。六倍は体格差がある相手と性交など、狂気の沙汰だ。
 彼女の女性器には、男どころか小指すら入るかどうか。
 そこでティティはふふんと笑う。
 「妖精の事に詳しくても、そっちの事についてはあまり知らないようですね。
 実は妖精の身体は、人間とは比べ物にならないほど伸縮できます。
 十分に、丹念に、ほぐし、潤滑させ、ぶち込めば………根本まで挿入することもできるんですよ?」
 ティティは僅かに湿った自分の陰部を、手で押し広げる。
 柔らかく、初心な、薄桃色の肉の花が咲き誇った。
 グロウが生唾を飲み込んだのを見て、ティティは小悪魔のように笑って耳打ちする。
 「ここだけの話、妖精はかなり具合が良いってのはその筋じゃ有名ですぜ旦那。へっへっへ」
 「妖精の台詞か、それは……だが、流石に人間と妖精で交わるわけには……」
 「グロウ様」
 ティティが再び、真面目な表情に戻る。
 「プライドも、何もかも……全て失ったと思ってるんなら、ここでそのつまらない常識とか理性とかも一緒に捨てましょう。
 這い上がるにしろ、落ちるにしろ……中途半端は、絶対に駄目です。少しでも私に欲情してくれたのなら、ほんの少しでも、私を好きでいてくれるのなら。
 私のためと思って、全てをぶつけて下さい」
 グロウの陰茎は、既に答えを出していた。
 それでも尚躊躇するグロウに、ティティがダメ押しとばかりに、照れくさそうに笑いかける。
 「私の身体なら気にしないでください。経験はありませんが……ちょっと、……どころではなく。その……

 ……マゾなんです。グロウ様のおちんぽで……私を、壊して下さい」
 
 その一言に。
 負け犬だったグロウの、消えかけていた嗜虐の心と、燻っていた恨み、辛み、憎しみに。火が灯ったのを感じた。


 二人用の広いベッドの真ん中に、ちょこんとティティの小さな身体が転がる。
 大の字になって仰ぎ見るのは、自分の体長とそう変わらない巨大な男根。
 「ち、近くで見ると凄いですね……こんなの本当に入るのかな……ははは」
 顔は笑っているが、声は震えている。 
 だが、グロウはもう後に引くつもりは無かった。
 「言い出したのはお前だ。俺は責任を負うつもりは一切無い。泣いても叫んでも股が裂けても、俺が満足しても、止めない。精液が一滴も出なくなるまで、お前は俺に犯され続ける」
 「ば、ばっちこい、上等ですよ……! 妖精の根性見せてやります! 気持ちよくなりすぎて頭がぱっぱらぱーになっても、私がお世話してあげますから心配しないで下さいねっ!」
 精一杯の虚勢と共に、ティティは控えめな胸を張り上げる。
 その胸に、グロウは逸物を押し付けた。
 「ひゃわわっ」
 硬い肉と柔らかい肉が、ぶつかる。
 擦りつけられて快感を覚えるのは、どちらの肉も同じだった。
 股の下から頭のてっぺんまで、妖精の正中線をペニスでなぞり上げる。
 「んあっ……ぐ、グロウ様! これ、凄いですっ! ひぁぁっ」
 今までに受けたことの無い、固く乱暴で、それでいてしなやかで優しい暴力。
 なぞられた線に沿って上へ下へと悦楽が迸る。ティティの陰部からはすでに愛液が漏れ、シーツに小さなシミを作っていた。
 特に、首から顔面に迫り来るペニスの暴力は、その雄の匂いも相まって酩酊感のような気分になり、ティティの思考にモヤをかけさせた。
 グロウもまた、これまでにない感覚に腰を動かさずにはいられなかった。
 暖かく脈動する、なめらかな上質の肉。もちもちとした弾力感のある肌に吸い込まれるように、亀頭が僅かに埋まる。
 股を往復した時の、僅かな筋に引っかかるときのほんの少しの感覚。それに触れた瞬間に彼女が震えると、自分の息遣いも荒くなる。
 グロウは、ティティの身体を摘んで引っぺがし、うつ伏せに寝かせる。
 まんまるで形のいい尻は、見ているだけで食欲をそそられる小さな果実だった。
 指でつつくと、ぷるんと音がしそうなほどに柔らかく動いた。
 「あんっ」
 横目で切なそうに見るティティに答えるように、彼女の裏側を乱暴になぞっていく。
 先ほど手入れし艶の戻った、柔らかく細い髪の毛も美味い、が、何よりもこの尻が格別だ。
 感触はもちろんだが、とっかかりが丁度いい突起になっていて、背中を滑らせるスピードも勢いづく。
 ティティの方はと言えば、背筋を駆け抜けていく肉棒に頭が溶かされていた。
 気持ち悪い心地よさに、鳥肌が止まらない。
 ベッドに押し付けられる胸や陰部にも火が灯り、シーツを強く掴んで喘いだ。
 「ひゃあぁぁぁぁぁぁん!! く、くすぐったいですっ! やめ……ないでください!」
 「悪いが……もう出そうなんだ」
 そう言って、グロウは下半身ごと自分を押し付ける。
 ティティの小さな身体が、ベッドに埋まって圧迫された。
 「ん、むっ……!!」
 後頭部に、熱いものを感じた。
 グロウが髪の毛に精液を吐き出したのだ。
 「ふぅ……」
 グロウはペニスを離し、シャンプーでもするかのようにティティの髪の毛を指で混ぜ合わせた。
 「俺の匂いだ。染み付かせてやる」
 そう言って満遍なく染み込ませたあと、彼女の顔面にペニスを持って行き、垂れるザーメンを落とした。
 「ひ、ひどいですグロウ様ぁ……」
 恍惚の表情をするティティ。その顔に、嫌悪の色は微塵も見えなかった。