ケリー、聞こえる?

  
  
  
 曲がったことが大キライ!なケリーは、13歳の夏、熱中症で生死の境をさまよったあと、オバケが見えるようになっちゃったんだ。それは、テリーにとっても、たいへんしょうげき的なことだったんだ。なぜなら、ケリーとテリーは双子で、彼らのママだって、彼らを「ケリー? あれ。それとも、テリー?」って迷っちゃうぐらいなんだ。ぼくが思うに、名前がややこしいと思うな。ケリーとテリーでしょ?一文字ちがいってさ、双子とはいえ、彼らのアイデンティティ的にも、そうとうダメージあるんじゃないかな。
 だから、たとえばさ、ケリーと
とかだったらさ、みんな、まちがえようがないじゃん? 二人としても、アイデンティティが守られるってわけだ。彼らのママは、その日のうちに役所に行って、即座に、テリーを
って名前にしちゃったんだ。
 まあ、その話はおいといて、つまり、ケリーは曲がったことが大キライなのに、オバケが見えるようになったものだから、オバケに市民権を与えようって運動を起こそうとするのさ。「ケリー、それはちがうよ、ちがうんだよ」と
は忠告するのだけど、ケリーはオバケに夢中さ。処女もオバケに捧げたって話さ。どういうことなのか、僕にだってわかんないけど、そういうことらしいんだ。そして、17歳のとき、ケリーたちの住むオクラホマ州で、薬物禁止法とデジャブ奨励法が制定された。それは、そのときの州知事が、薬物をはげしく憎み、デジャブをこよなく愛する、というアンバランスな性格が色濃く反映されたと、もっぱらの評判だったのさ。
 ここから湿っぽくなっちゃうけど、ケリーはそのころには、はたから見たら、オバケに市民権を!と活動する、立派なジャンキー。その、あらたに制定された法律で、しょっぴかれてもおかしくなかった。しかしその、ときおり遠い目をするところから、デジャブ奨励法も適応されて、その、アンバランスさが、人々の心は揺れうごかしていたんだ。いっぽうで
はダンサーをめざして、日夜、オクラホマ・ミキサーを練習していた。なぜ、ダンサーを? それはね、ダンスだけが、ケリーを救う唯一の方法だと、
から教えてもらったのさ。だからさ。泣けるだろう?
 えっ?
って誰かって?えっ。えーっ、きみ、ほんとうに
を知らないのかい?これまでの人生で、一度もその名を聞いたことがないっていうのかい?そう、そうかい。きっと知っているはずだけど、あえて説明するとしたら
だよ。それ以上でも、それ以下でもないんだ。ズルい説明に思うかもしれないけど、いつか君にもわかるときがくるのだよ。
 ああ、そうだった、それから、ケリーと
はどうなったか。
 その日は、とても天気が良くて、オクラホマのミキサー(サボテンとゆかいなメス犬)たちも、バター顔の太陽のもとで、祈るようなダンス、飛び散る汗、はじけ飛ぶ歯茎といった、青春の一ページを刻んでいた。ケリーも例外ではなく、あいかわらずの調子で「オバケの、オバケによる、オバケとゆかいな仲間たち」と叫んでいた。叫ぶだけじゃない。尿をまきちらしていた。つまり、軽犯罪さ。なにを主張したいのか、ケリー以外にはわからない。しかし、きっと、彼なりに正しいことなのさ。僕らは、そう信じるしかない。しかし、その尿が悪夢のはじまりだった。事態を収集させるべく駆けつけた、州知事の、にごった右目に、ケリーの、意外と健康そうな色の尿が、数滴、レイプした!州知事の脳裏には、かつて、大学院生のころにうけたスカトロ・プレイがフラッシュ・バック。知事はスカトロの鬼と化した。チェ・ゲバラと共にキューバ革命を起こしたのは、カストロ。両者はとても似ているけど、全然ちがう。だけどこのときだけは、その差が、思想的に、かぎりなくゼロになったのさ。街は、スカトロの革命によって、地獄になった。スカトロ・パニック。街便器さ。そしてケリーは、狂喜した。これだ、と。これが、「オバケの、オバケによる、~」だと確信したんだ。
 そのときだよ。
に対して、救いを求めたんだ。ひたすら祈る。具体的には、体で、オクラホマ・ミキサーを刻みながら、その名を、心のなかで連呼する。
 いくら連呼したところで、奇跡は起こらない。きみはきっとそう思うだろう。
 それはおおむね正しかった。というか、かんぜんに正しいよ。
 何も起こらなかった。水が上から下に流れるように、州知事のスカトロ・パニックを止めることはできない。そして、ケリーの「オバケの~」も、止めることはできない。できぬ。
 ああ。
 僕は、疲れたよ。
 連呼していると、途中でトランスにはいるけれど、そのトランスも三回ぐらいはいったら、体がムリ!ってなる。
 ああ。
 結局、僕は、何がしたかったのだろう、と
は考える。考えたところで、答えは出ない。そんな力はもう、ない。あたりは、正気でいられるのがウソみたいに、臭かった。
 不条理なまでに、臭かった。一個一個のポテンシャルが高く、しかも、おたがいが重なりあうことで、より力を増している、最高のチームだ。勝てるはずがなかった。ああ、僕はいったい、なにをやっているのだ。毎日、オクラホマ・ミキサーばかり踊って、友人や恋人もつくらず、だだ一心に、祈りをささげて、その結果がこれだ。
は、疲れはて、唯一、洗礼を受けていないパン屋の壁にもたれ、ケリーを目で探した。

 しばらくして、遠くに、かたわれが、頭をかかえ、地面に崩れおちているのがみえた。
「なんか、これ、思ってたんとちゃう……」
 
 
 
 
 
sage