第11話 VIPヌクモリティ (4/9)

 ひばりが丘のアパート、高橋の自室。
 ダークエロスの乙女マリンとの戦い、その勝利と引き換えに失われたのは、アンリエッタの剣だった。
「修理すればいいんじゃないか?」
 高橋の提案に、アンリエッタは小さくため息をついた。
「これはピュアエロスのエネルギーで作られた剣です。普通の鍛冶屋が修理できるとは思えませんし、同じものを作ることができる人間がいるとも思えません」
 確かに剣はアンリエッタとともにコピー機から現れたものだ。ならば普通の剣であるはずがない。彼女の言うことももっともだろう。
「それでも、俺は人間の可能性に賭けてみたい。というかそれ以外に方法が思いつかない」
 高橋が言う。しかしアンリエッタの視線は床に置かれた剣に落とされたままだった。
「心配するな、俺みたいなエロスを持つ鍛冶屋がどこかにいるはずだ。なんていったってここは変態紳士の集まる国、日本なんだからな」
 高橋は力強く言うと、アンリエッタの肩を優しく叩いた。
「さあ、パーフェクトドリンクを飲んで鍛冶屋探しだ!」
 冷蔵庫からおいしい牛乳を取り出した高橋はそれを二つのコップに注ぎ、一つをアンリエッタに差し出すと自分は腰に手を当てて純白のパーフェクトドリンクを一気に飲み干した。

「なんてアンリエッタにはかっこつけてみたものの、どうやって鍛冶屋を探せばいいのか皆目見当もつかないぞ。鍛冶屋といえば『しんけん!!』のサービスが終了したのは悲しかったな」
 自室のパソコンに向かい、マウスのホイールをカリカリと回す高橋。
 ググるだけでは得られる情報などほとんどない。一応電話帳も見てみるが、剣をうてる刀鍛冶の電話番号など載っているはずもなかった。
 やはり、こちらから積極的に鍛冶屋を探さねばならないだろう。高橋はツイッターのクライアントを立ち上げると、非現実的なつぶやきを叩き込んだ。
『剣をうてる一流刀鍛冶を教えてくれ#至急#拡散希望#刀鍛冶』
「なんてツイートしても、俺のフォロワーは300人だしほとんどが社交辞令だしな……」
 ツイッターに次いであてにならないヤフー知恵袋にも同じような書き込みをしておく。ありったけのコインをお礼にしたが、どうせ大した回答は得られないだろう。
「やっぱり最後はここか」
 高橋がアクセスしたのは、2ちゃんねる……いや、5ちゃんねるだ。
 5ちゃんねるって何だよと思いながら、高橋はアドブロックを入れたブラウザでアクセスする。5ちゃんはとにかくゴミ漫画広告がえげつなかった。これが高橋が2ちゃん……いや5ちゃんから離れるきっかけの一つとなっていた。
「許せる広告はどす恋ジゴロくらいだったな。それは置いておいて、今は鍛冶屋を探さないと。えーと、スレタイは今どんなのが流行っているんだ? 教えてクレメンスはなんJだよな……ちょっとわからないから直球でいくか」
『一流の鍛冶屋を探してるんだが』
 スレタイは、誰が見てもわかる直球真ん中ストレートであった。
 今や閑散としたVIPで、誰がこんなスレを見るのだろうか。そもそもVIPにスレ立てをすること自体間違いであったのではないだろうか。
『もしかして異世界から来たのかな?』
『まあ、そんなところです』
 まともなレスが付くはずもなく、高橋はVIPにクソスレを立てたことを後悔し始めていた。
『特別な剣が折れてしまったので直せる人を探しています、教えてエロい人』
 いくつかの冷やかしの後、最後の更新でレスがなければブラウザを閉じて寝ようと思ったその時。
『ほぼ日刊イザム新聞でググると幸せになれるよ』
 見慣れない文字が、高橋の視界に飛び込んできた。よくわからないがなぜか信頼できる、そんな気がした。VIPヌクモリティは理解するものではない、感じるものなのだ。
『さんくすこ、ググってみる』
 お礼のレスを付けると、高橋は教えられた謎の言葉を検索窓に打ち込んだ。

 VIPのクソスレで教えられた通り『ほぼ日刊イザム新聞』を検索すると、そのままのタイトルのホームページがあった。名前こそほぼ日のパクリであったが内容は全く別物で、黒背景にピンク色の文字というどうしようもなく見づらいものだった。
 半ば釣られたかと思いつつ、高橋はホームページの紹介ページを読んでみた。
『ABOUT……ここは刀鍛冶イザムのホームページです』
「刀鍛冶だって!?」
 無駄に左右に揺れる文字、カーソルを追いかけてくるハートのアニメーション。テキストサイト全盛期の頃のような作りのホームページが、刀鍛冶のものだというのか。
 さらに詳しい活動については動画を見てほしいと、リンクが貼られている。
「刀鍛冶でユーチューバーなのか……」
 困惑。高橋は両手を頭の後ろで組むと、深いため息をついた。本当に大丈夫なのだろうか。いや、ここまで来たらVIPPERを信じてユーチューブを見てみるしかない。
『ほぼ日刊イザムちゃんねる』にアクセスし、一番新しい動画をクリックする。高橋は思わず息を飲んだ。
『はぁ~い、メルティ・ラ~ブ』
 赤髪赤目、ゴスロリ風の衣装に身を包んだ性別不詳の人物が満面の笑みでこちらに向けて手を振っている。
 性別不詳だがこのガタイの良さと声質は間違いなく男だろう。
『刀鍛冶のイザムで~す。今日は小太刀をうちたいと思いま~す』
 そう言うとイザムと名乗る鍛冶屋は、火をくべた炉へ鋼の塊を突っ込んだ。
 彼の手つきがかなり慣れたものだということは、ド素人の高橋にも理解できた。どうやらユーチューバーが再生回数稼ぎに無茶なことをしているわけではないようだ。
 小太刀が出来上がるまで何時間かかるかわからないので、高橋はホームページに戻るとイザムに宛ててメールを打った。