ショッピングモールで買い物としていたら、コーラをラッパ飲みする子供から、母親がペットボトルを取り上げているのを見つけた。
「だめよ、はしたない。これはおうちの中でこっそりと飲みましょうね」
「でも母上、遠足に行ったときは外でお弁当を食べたりお茶を飲んだりしましたよ?」
「ご飯は良いのです。それからお水やお茶も。コーラはガスがお腹にたまるでしょう? 外では汚いことはしてはいけないのよ」
 汚いこととはげっぷの事だろうな、と私は思った。この国ではげっぷは罰則の対象となることがあるのだ。具体的には二酸化炭素やメタン等の炭素を含むガスや硫黄が含まれる成分が一定以上に達する場合、マスク等の生体フィルターを通して浄化しない限り、公衆空気への排出は認められないのだ。俗に「生体ガス排出規制条例」と呼ばれるこの規定は半年前に制定された。当然だが通常の呼吸、それからおならにも適用される。
 炭酸飲料メーカーもこのことは重々承知していて、基本的に市販されている炭酸飲料の炭酸ガスは基準値を下回る数値ということになっている。しかし万一の事があっては困るということで、基本的に外で炭酸飲料を飲むことはあまりない。メーカーも非推奨という位置付けだ。

 『ゲェ〜ッ』と大きな音が広場に響いた。子供の方を見れば、口を抑えて気不味そうな顔をしている。しかし母親の方はそれどころではない。真っ青な顔をして子供を抱きすくめている。周りの人も気の毒そうに二人をちらちらと見ている。しかし無情にも広場中央上部にある簡易ガス検知機のサイレンがけたたましい音で鳴り始めた。ガスGメンのおでましである。

 ガスGメンはこうしたげっぷやおなら事故の調査のエキスパートである。拡散してしまった生体ガスを採取したり、当時の状況を再現することで、排出時の濃度を推定して基準値に適合しているかどうかチェックする。
 こうして子供が不幸なげっぷ事故を起こした時の空気は耐えがたいものがある。赤ん坊が哺乳瓶を離したあとのげっぷに居合わせた時は本当に最悪だった。罪のない子供がげっぷ一つの為にいらぬ前科を負うことになるのだと思うと見ていられない。その場を離れようとしたが、その前にGメンの声が耳に入ってきた。
「お母さん、このコーラはあきまへんわ。これ最近ガス不正で自主回収発表された奴ですもん。一応検査しますけど、絶対アウトですわ」
 母親の泣き崩れる声が聞こえた。