「自分の好きなことをマイクに向かって全力で語って下さい。その熱意が、深さが、情報の価値が、あれがあるほど、沢山の食料が産み出されます」
 テレビの中で男が力説する。
「つまり、このマイクを使えば好きなことで生きていけるんです」
 どよめきの声。こういうテレビショッピングのガヤって一体どうやって集めてるのかしら。わたしは昼の準備をしようと立ち上がった。
「くだらないわねえ……。こんなの買う人いるのかしら……貴方?」
 見れば夫は携帯を構えて電話しようとしていた。
「あ、いや、これは違うんだ、その……」
 夫の下らない家電マニアっぷりにも困ったものだ。私は溜息をつくと台所へ立った。

「凄いよ! 本当に好きなものについて熱弁するだけでこんなに沢山!」
「遊ばれるのは結構ですけど、賞味期限の管理はちゃんとしてよ。ナマモノとか突然大量に持ってこられても困るから」
「ふふふ、任しとけ。これからは食い物の心配なんてしなくてもよくなるぞ」
 新しいものを前にすると本当に子供みたいである。まあしばらくは好きに遊ばせてあげよう。

 ここのところ夫の元気がない。家電の新製品探しはおろか、あれほど時間が足りないと言っていた沢山の趣味のどれも手につかないようで、いつもぼんやりと虚空を見つめている。
「最近どうかしたの? 別に暇な時間には好きなことしてていいんだよ」
 夫がこちらを見た。びっくりするほど空虚な瞳だった。
「なくなっちゃったんだ……」
「え?」
「趣味が、なくなっちゃった。何やっても全然面白くない。マンガも電子工作も、もう見るのもイヤになって、全部捨てちゃった」
 捨てた? 中学校以来ずっとやってた工作を全部!? あの蔵書量のマンガを全部!? 何かおかしなことが起こっている。私は軽い恐怖を覚えた。
「マイクのせいだと思う……」
 夫がつぶやいた。
「マイク?」
「あの、食材が出てくるマイク。あれに向かって何か言うと、言っただけそれが好きな気持ちがなくなっちゃう気がする。それに気付いてから、怖くて。でも、食材が出てくるのは面白いから、止められなくて……」
「ね、ねえもう寝た方がいいよ。貴方疲れてるのよ……」
 私の制止をふり切って、夫は続けた。
「昨日ね、僕、やっちゃったかも……だから謝りたくて」
「やっちゃったってなにをよ」
「君との結婚生活の話をしちゃったんだ……。ごめん」
 夫はポロポロと涙を流した。