境内を掃きに出ると、いつもの高校生が参拝しているのが見えた。
「精が出ますね?」
 声をかけると、無言で顔を赤らめながら足早に走り去った。
「また来てたの?」
 後ろから神主さんが現れた。いつも通りの柔やかな笑顔だ。
「ええ。何の願掛けなのかは分かりませんけど……」
「彼は凄いよねぇ。願掛けとはいえ、今時珍しいひたむきさだよ。まあ、君がいればこそ続いてるんだろうけど」
「え? どういう意味ですか?」
「んー。いや、なんでもないよ」
 どこか歯切れが悪い。私がいると願掛けが上手くいく? 願掛けが叶うのは神様のおかげだと思うが。

 一週間後、今度は高校生の方から話しかけてきた。うちの神社の願掛けは基本的に途中で喋るのはよくない。こんなことは初めてだ。
「どうも、こんにちは」
「こんにちは。もう願掛けはいいんですか?」
「はい。今日が100回目ですから」
「願い事、叶うといいですね」
 そう言いながら、私はふと彼の態度が気になった。願掛けが済んだのに、なんで彼はまだここにいるのだろう? 私に何の用なのだろう?
 彼の言葉を待っていると、後ろから声がかかった。
「やあお二人さん、おはよう」
「あ、神主様、おはようございます」
 神主さんのいつも通りの柔やかな笑顔。いや、よく見ると笑顔に翳りがあるようにも思える。どうかしたのだろうか。
「願掛け、終わったんだ?」
「はい、おかげさまで」
「それで早速実践かい? 若いのにあなどれないね」
「はい?」
「ちょ、ちょっと神主さん……」
 高校生への攻撃的な言葉。たしなめようとした私を押しとどめて、神主さんが言葉を続けた。
「悪いけど、この子は僕の彼女だから。たとえお百度してくれても、君に渡すわけにはいかないねぇ」
 後ろからグッと抱きすくめられて、気恥ずかしさに顔が熱くなる。神主さんが私のことをここまで想っていてくれたなんて……。高校生へのからかいも、彼なりの嫉妬心の現れだったのか。
「神主さん……」
「今はその呼び方で呼んで欲しくないな。名前で呼んで?」
「……もう」
「あの、すみません」
 完全に二人の世界に入りかけていたところで邪魔が入った。いや違った、元々は彼と話してたんだっけ。
「どうしたの? まだ何か?」
 神主さんが面倒くさそうに聞くと、気不味そうに彼は続けた。
「いや、あの、お守りが……社務所にあるの、恋愛系のしかなくて……学業成就のないか、聞こうと思ってただけなんですけど……」