「だから『ご馳走』だって! なんべん言ったら分かるの!」
 不快な顔して皿をつっかえす彼女を見ながら僕はうんざりしていた。皿の上に載っているのは白い皮に包まれた円柱形の肉の塊……一般に『シウマイ』と呼ばれているものだ。
「私の言ったこと聞いてた? 私は『ご馳走』が食べたいって言ってるの! 美味しいものが食べたいと言ってるわけじゃない!」
「分かったよ。じゃあ君の言うご馳走がなんなのか教えて欲しいんだけど」
「あのね……あなたがそういうこと言うから私は怒ってるのよ!」
 こうなってしまうともう今日はダメだ。明日再チャレンジするしかない。
 彼女は二週間前からずっとこの調子である。理由を聞いても『ご馳走が欲しい』の一点張りで、具体的に何が欲しいとか、どうして僕に要求するのかとか、こちらからの質問は一切受けつけてくれない。
 こっちもこっちで、回らない寿司屋に連れていったり、フレンチ、イタリアン、ちょっと捻って高級焼肉店に連れていったりした。答えは全て同じ。『これはご馳走じゃない!』
 分からない。寿司と焼肉がご馳走じゃなかったらなんなのだ。

 その日、前日の満漢全席が空振りに終わった僕は、途方に暮れながら夕飯のメニューを考えていた。高級店通いは財布が痛むのでそうそう頻繁には出来ない。その分を普段の食費を切りつめることで捻出しているので、普段の食事はもやしにもやしを付け合わせてもやしでもやしを食べる、みたいなことになっていた。そろそろ違うものが食べたい……しかし冷蔵庫にはもやししかない。
 ノックもなしに玄関のドアが開いた。彼女だった。そのままつかつかと台所まで入ってくると、冷蔵庫を開け放つ。
「やっぱりここに皺寄せがいってたのね……ホント馬鹿なんだから」
「そういう言い方はないだろ」
 ムッとして答えると、彼女は珍しくしおらしい顔を浮かべた。
「分かってるわよ。私も強情張り過ぎて悪かったわ。時間もないし、早くご馳走食べに行くわよ」
 どういう心境の変化なのか。あっけに取られる僕の手に、航空券が押し込まれた。
「これは?」
 まさかご馳走って、海外の有名店? だが彼女の返答は更に斜め上を行っていた。
「福岡行きよ」
「福岡?」
「ちょっと、まだ分からないの? 貴方の実家よ」
「あの、説明を……」
「はあ……前言ってたじゃない、実家の料理が一番のご馳走かも、恋しくなるって……だから、私、ちょっと食べてみたくって」