「うれしいですね。大企業の部長が直々に声を掛けてくださるとは」
 男は湯呑みを置くと、応接室をゆったり見渡した。その様子を見て、部長はふっと微笑んだが、すぐに顔を引き締めた。
「うむ。この件は直接依頼したいと思ってね」
 部長は机に置かれた湯呑みを手に取ると、グッと飲み干した。
「近年我が社の中堅や幹部社員の退職が相次いでいることは知っているかな?」
「ええ……ただそれは業界全体の市場規模の縮小や合併による減損処理が重なっているからと」
 男の話を部長は腹立たしげに遮った。
「それは表向きの話だ。最近判明したのだが、Y社が採用活動を活発化させているのだ」
「Y社と言えば、競合他社の……」
「そうだ。それだけではない。我が社がこれはと思って声をかけた人物から次々とY社に入社していってしまうのだ。中途、新卒問わずだ」
「同じ業界ですし、意中の人材が被るのは不思議ではないと思いますが」
「我が社の技術者も次々に引き抜かれているというのにか?」
 部長はもう苦虫を噛み潰したような顔をしている。このまま視線で人を射殺せそうだなと男は思った。
「……もしそれが事実だとしましょう。それで、僕にどうしろというんですか?」
「なんだ、察しが悪いな」
 部長の眼鏡が窓からの光を反射してキラリと光った。
「奪われっ放しは性に合わなくてね。ヘッドハンティング協力してくれるだろう?」
「まあ、それに見合うだけの報酬がいただけるなら」
 男はそう言って、肩をすくめた。

「こんなにすぐに呼び出して、何のつもりだ? これでも私はそれなりに忙しいのだがね」
「何って、終わりましたからね。報告させていただこうかと」
「終わった?」
 依頼をしたのが昨日の今日だ。そんなに短時間で引き抜かれた社員たちを心変わりさせたというのだろうか。
「そんなに簡単な仕事ではないと思っていたのだが。プロの仕事は素晴らしいね」
「ええ。説得は難しいと思ったので、僭越ながら簡潔な方法を取らせてもらいました。これが証拠です」
 男がリュックを下ろして逆さに振ると、中から人間の首がゴロゴロと出てきた。
「取りあえず10個ぐらい取りましたけど、もっといります?」