「暇」
「行くか」
「じゃあ駅前で集合な」
 俺らの間で『行く』と言ったら、チャリで駅前の商店街にあるカラオケルームに行く、ということだ。チャリに乗ってガッコを先に出る。峠の麓まで進むと先に出発したはずのリョータが店の前でチャリに腰かけたまま座っていた。
「おいなにやってんの? 俺もう十分待ったんだけど」
 俺やリョータはチャリ通だから直接行くけど、コーヘイは家まで帰って後で合流しなければならない。それだと不公平、ということで直行組も出発時間やルートをバラバラにして駅前で纏まって集合、と俺たちの間では決まっているのだ。コーヘイの家の前で集まればいいと思うのだが、コーヘイは家を俺たちに紹介するのがイヤらしく、どうしてもうんとは言わない。友人関係を些細な諍いで壊さない為の田舎学生の浅知恵だ。
「あれ、見ろよ」
 リョータが指す方向を見ると、そこには俺たちの天敵がいた。染めた髪に整えた眉、着崩した制服から覗く色の濃いTシャツは学内カースト最強の『種族』の証。我ら低層民には奏でることすら叶わぬ耳障りな……否、かぐわしきお声がここまで届いてくる。
「帰るか」
「そだな」
 俺たちはあっさり結論した。相手が悪過ぎる。俺たちの行きつけのカラオケルームは5部屋しかないのだ。行きつけ、というか、そもそも一軒しかないわけだが。5部屋のうち2部屋は3年生、2部屋は2年生が使うものと決まっている。つまり1年生は1部屋を争うことになるわけで、これもクラスごとの取り決めにより、曜日に応じて使えるクラスが割り振られている。今日俺たちがこうしてやってきたのも、今日がクラスデーだったからということなのだが、まあ考えることは誰でも同じというわけだ。
 よく『田舎にある娯楽はセックスとパチンコだけ』と言われるけど、学生は未成年ということでパチンコを取り上げられ、非モテはセックスを取り上げられる。俺らに残されたのは週に1回『都会』まで遠征して楽しむカラオケとボウリングだ。それさえもこうしてモテ達に奪われたりするわけだが。
「コーヘイはどうする?」
 俺が聞くとリョータは鞄からプリントを取り出した。
「これ使おう」
「あ、セロテープあるわ」
 プリントの裏に大きく『注意!! 珍獣棲息中』と朱書すると、ドアの前に貼りつけると、俺たちは素早くその場を立ち去った。