『決まったーーー!!! ニッポン勝ち越しーーーー!!』
「ウオーーーッ!!」
 最前列で50型プラズマに被りついていた先輩が吠えた。
「いやー、マジ凄いっすね!」
「四宮は神!! 魔法使い!!」
「いやもうホント、まだ終わってないのに泣きそうだわ」
 勝てば決勝トーナメントに進出の一戦で格上相手に互角以上の勝負。下馬評では苦しい戦いが予想されていたが、その逆境を撥ねのけ、ここまではまるで魔法にかけられたかのような目覚ましい活躍を見せている。
「あれ、そういえば立田はどうした?」
 狂乱から少し正気に戻った先輩が俺に聞いてきた。立田はこの寮随一のスポーツ馬鹿で、今回のW杯前にもこっちがイヤになるほど代表豆知識や過去のW杯結果を聞かされて来た。これまでの中継も欠かさず見てきている筈だが、今この場には居なかった。
「部屋で一人で見てんじゃないですか?」
「なんだそれ。駄目だろ! 喜びは分かち合わないと。俺たちは全員でニッポン代表なんだから!」
 謎理論だが先輩の命令は絶対だ。俺はしぶしぶ立田の部屋まで行った。
「おーい立田! 下で皆で見てっぞ! 先輩呼んでるから今すぐ降りて来い!!」
 大声でノックしたが返事がない。おかしいな。明かりはついてるから在室のはずだが。
「立田?」
 ドアを少し開けて中を確認してみると、ベッドの上で座禅を組む立田の姿が目に入った。下には曼荼羅のような模様のカーペットが敷かれ、周囲を蝋燭が取り囲んでいる。立田は目をつむり、何がしかをぶつぶつと呟き続けていたが、俺の視線を感じたのかこちらに目を向けた。
「……何してんの?」
「いや、必勝祈願を……」
「もう試合始まってるって!」
「え! うそ! あ、マジだ! なんでもっと早く言わねえんだよ!」
「知るか! 行くぞ」
 ミッションを果たして下に降りてくると、画面前応援団は死んだような顔になって意気消沈している。
「ど、どうしたんすか」
「立田ぁ……魔法解けちゃった……元に戻っちゃったよ」
 先輩は泣きそうな声だ。画面の中の日本代表にはさっきまでのプレーの片鱗も見られない。まるで別のチームのように精彩を欠いていた。それを見て、立田が呟いた。
「必勝祈願に戻らないと……俺が祈らないと駄目なんだ」
 いや、そんなわけないだろ。