店長がいつも通りに開店準備をしていると、バイト君たちが店の外を見て何やら話し込んでいた。
「どうしたの?」
「あ、店長」
「なんか店の前に挙動不審な人がいるんですよ」
「挙動不審な人?」
「看板に隠れたり電信柱の影からじっとこちらを伺ってるんですよね」
「どうします? 警察に通報とかした方がいいですかね?」
 店長は店の前の道路を見やった。顔が半分隠れていて見えないが、よく見ればそれは常連の中学生だった。店長が店の外に出てゆっくりと手招きすると、その中学生はビクリと身を震わせ、周りに他に誰もいないことを確認してから店の中に入ってきた。まるで指名手配でもされているみたいだなと店長は思った。
「散髪に来たんだろ? まだ誰もいないからすぐ始められるよ」
「えっ、あ、まあ、はい……」
 店長が椅子を勧めると、中学生は促されるがままに腰を下ろした。
「今日はどうする? いつもの感じでいいかな?」
「え、えっと……?」
「髪だよ、ヘアースタイル。いつもだと確か……」
「あ、横と前は耳と眉毛が出るぐらいで、他も同じぐらいの短さで。バリカンは無しで……」
「ハイハイ、そうだったね。じゃあ」
 注文を受けて店長がはさみを取り出すと、中学生は我に返って慌てて言った。
「いや、ちょっと待ってください! 今のは、ちょっと無しです、無しに」
「ん? いや、それは別に構わないけど……じゃあどうしたらいいんだい?」
「ええーと……その……」
 中学生の言葉はなんとも歯切れが悪い。もじもじしながら顔を赤らめてうつむいている。店長は困ってしまった。
「うーん……迷うのは構わないんだけど、ちゃんと注文を言ってもらわないと。こっちも切りようがないんだよね」
 中学生は俯いたまま答えない。
「具体的じゃなくてもさ、例えば有名人やアイドルと同じような髪がいいとか、ちょっとこういう雰囲気がいいとか……ここは美容院じゃないから全部注文通りにはいかないけど」
「はい……」
 そう答えながら、中学生は何も言わない。店長はアプローチを変えてみることにした。
「うーん、じゃあなんで普段と変えてみたいの?」
「……指名手配されたからです」
「え?」
 中学生は真剣な顔をしている。店長は中学生が店に入る前にコソコソと様子を伺っていたのを思い出していた。いやしかし、まさか。
「本当に?」
「嘘ですよ。イメチェンです」
 中学生はそう言うと、黙って俯いた。殴ってやろうか、と店長は思った。