回転寿司のテーブル席に集まった大学生たちは、下らない話で時間を潰すのが決まりである。
「回転寿司ってさ、何が回転してるわけ?」
「そりゃあ寿司でしょ」
「いや、そりゃ俺たちから見たら回ってるのは寿司よ? でもさ」
 一人の男がレーンから赤身を取りながら言った。
「寿司から見たらどうなわけ?」
「何が言いたいんだ」
 別の男の突っ込みに、待ってましたとばかりにその男が声をあげた。
「だからさ、回転運動ってのは座標系に依存するわけじゃない。俺たちのいる慣性座標系にとっては回転してるのは寿司。だけど寿司座標系から見たら寿司は停止していて、回転してるのは俺たち客ってことにならないか?」
「いや、それはおかしいだろ。寿司座標系は回転座標系だろ? つまり寿司から見た俺たちは慣性系から見た回転とはまた違うんじゃないか?」
「そもそも回転座標系とか言うけど、寿司自体は回ってるっていうかレーンの上を動いてるだけじゃん。レーンの軌道も円軌道じゃないし……」
「確かに、回転の定義を考えると寿司が回転しているかどうかについては議論の余地が……」
「何言ってんのよ」
 はしゃいで議論に興じる理系オタク共を尻目に姫がぴしゃりと言い放った。
「店の主役は客。寿司は客に食べられるものなんだから、回ってるのは寿司に決まってるでしょ……キャッ!?」
 姫の悲鳴にオタクが一斉に振り向いて見たものは、回転寿司の皿の上に乗っているイソギンチャクのような形をした物体。そして姫がイソギンチャクのお化けの触手に頭の上から絡め取られて持ち上げられているところだった。『イソギンチャク』の上部はまるで口を開いたようにポッカリと開いていた。
「な、何見てんのよ! 助けなさいよ!」
 姫はわめくが、オタクは動けなかった。その沈黙を破るように『イソギンチャク』の『口』が動いた。
「前半は賛成だが、後半は解せんな」
 店内が静まり返る中、『イソギンチャクは』続けて言った。
「この店では儂らが客で、あんたらが食物だよ」
 皿から次々と触手が飛び出し、店内を悲鳴が覆い尽したが、いくらもしないうちに再び静かになった。
「やっぱり回転人間は踊り食いに限るわなぁ」
 怪物以外いなくなった店内で、のんびりと『イソギンチャク』は呟いた。