「このかき氷美味しいー!」
「氷も澄んでいて臭みがないし、このシロップも絶妙な甘みと酸味が堪らない……」
「本当ですか! ありがとうございますー! 氷は天然水を、シロップは自家製のものを使ってるんですよー」
 客からの賛辞にニコニコしながら答える店員。連日の猛暑のお蔭で、かき氷専門店は今日も大繁盛だ。
「ん、なんだこれ?」
 器を抱えてかきこんでいた一人の客が声を上げた。器を置いて口の中から取り出したのは厚紙で出来た小さな紙片だった。
「何これ……シロップ調理見学券?」
「おめでとうございます!!」
 カランカランとベルが鳴って、奥から店員が何人も現れた。
「当店のかき氷には、調理室内に入って見学出来る『当たり』があるんです」
「秘伝のシロップの製作行程を見学出来るまたとないチャンス!」
 突然のことに店内がざわつく。
「えーいいなーうらやましい!」
「でもさ、秘伝のレシピなのに見学なんておかしくない?」
「確かに……」
 微かに聞こえる心配をよそに店員が促した。
「さあさあ、どうぞ奥へ」
「ちょ、俺このあと用事が……」
「大丈夫ですよー。美味しいシロップにはそういうことは不要ですから」
 男性は断る素振りを見せたが、店員たちは有無を言わせぬ雰囲気で男性の両脇に立った。そのまま両脇を抱えると、調理室へと無理やり連れ込もうとする。抵抗むなしく引きずられていく様は、まるで犯人を連行していくかのようだった。残された客たちは口を開けてそれを見つめていた。
「何、今の……」
「嫌がってるのに無理やりってどういうこと?」
「それに今、美味しいシロップには不要とか言ってなかった? 作らせるってこと? それとも……」
 女性客たちは手元の食べかけたかき氷を見た。まさか、そんな……。果肉のような細かいつぶつぶが混じった真っ赤なシロップ。さっきまでは食欲をそそるものでしかなかったそれが、今となっては酷くおどろおどろしいものに感じられた。
 途端にドアが開くと、先ほど『連行』された男性が出てきた。満面の笑顔である。
「素晴らしい見学でした。ここのシロップは本当に最高ですね! 皆さんにも『当たり』が出ることを祈っています!」
「さあ! まだまだ『当たり』はございます! どんどん食べてどんどん見学していってくださいね!」
 店員がにこやかに店内に呼ばわった。