健康な身体を持った青年が夜遅くまで活動していれば、自然と腹が減るものだ。腹が減った若者がコンビニに集うのも、これも自然なことと言える。
 店の前に着くなり、ある友人が耳を動かしながら眉をひそめた。
「なあ、なんか聞こえないか?」
「え? 何が?」
「ほら、なんつーか耳なりみたいな感じの、甲高い音がさ」
 耳をすませると、確かにそんな音が入口前の店頭スピーカーの方から聞こえてくる。最初は空耳かなにかという程度の音量だったが、聞いていくうちに次第に音は強くなっていく。店内BGMや有線放送などではあり得ない周波数。明らかにわざと出している音である。
「なーんか変な音だな、うるさいってほどでもないけど耳障りだし」
「あーなんかずっと聞いてるうちに頭痛くなってきた気がするわ」
「ひょっとしてこれ、前に話題になったモヒート音とかいう奴じゃね?」
「モスキート音な。モヒートは酒」
「そうそれだ! 覚えてるとかすげえな」
 流行ったのも随分前だったはずだ。もてはやされた割に効果はイマイチですぐに廃れてしまったというのに、今さらになって持ち出してくる辺り、ここの店長も大概だな。俺はもう一度モスキート音に耳をすませた。
 甲高いキーンという音は相変わらず単調なリズムを刻んでいる。キーン、キーン、キーン、キ、キ、キ。俺はふと疑問に思った。モスキート音はこんな風に鳴ったり止んだりするようなものだっただろうか。もっと連続して鳴り続ける音源だったような……。
「なあ、これなんでこんなリズミカルなんだと思う?」
「え? さあ……店長の趣味じゃね?」
「どんな趣味だよ」
「実はモールス信号マニアとか」
「モールス信号マニアってなんだよ」
 ツッコミを入れてからふと気付いた。短音3つに長音3つ、短音3つの組み合わせ。それは、救援を要請するモールス信号ではなかっただろうか。
「おい、バックヤード入るぞ。俺が戻らなかったら110番しろ」
「は? どうしたんだよ急に」
 驚く友人を置いて慌ててレジ裏に突入する。急病か? 強盗か? ドアを開けると、店長はびっくりした顔でこちらを見た。その頭にはヘッドホンがかかり、放送用ボタンをリズム良く押している。
「いきなりなんなんだ君は。強盗か?」
「うるせえ! 紛らわしいんだよ!」
 叫んだ俺の声は、泣きそうだったかもしれない。