リビングと違い、寝室には余計なものはなくベッドメイクも終わっていた。
 毅は美咲を片腕に抱きしめたまま、後ろ手にドアを閉める。
「これで本当に、二人きりですね」
 毅の唇が美咲の耳から首筋をなぞる。
 いつもは夫と眠る寝室で、今は別の男の腕の中にいる。
 しかし不思議と罪悪感はなかった。
 それは竿師を名乗る男の不思議な雰囲気のせいだけではない。
 結婚3年目にして同じベッドで眠るだけになってしまった夫婦の関係は、冷え切っていた。
「美咲さん」
 その声で、美咲は顔を上げる。
「……すいません、考え事をしてしまって」
 小さな声でそう答える。
「いいんですよ。あなたも、誰かに甘えたかったのではないですか。
 人の温もりを、求めていたのでしょう」
 毅は美咲の羽織っていた白いカーディガンを脱がせ、ベッドの上にふわりと置く。
「ここでは嫌でもご主人のことを考えてしまいますよね。
 いいんです、今日だけは。今だけは、あなたは私の恋人です」
 毅の大きな手が、ブラウスの上から美咲の胸に触れる。
 思わず漏れる、甘い吐息。
 後ろから抱きしめられたまま、交わされる甘美な口づけ。
 求めあうように絡み合う二人の舌。
 ――こんなキスは、夫とも……
「今は忘れてください。恋人同士の時間は短い」
 心を見透かしているかのような言葉と共に、毅はブラウスのボタンをはずしていく。
 レースで縁取られた下着まで、たやすくはぎとられてしまう。
 なだれ込むように、二人はベッドに落ちる。
 見ればいつの間にか毅も服を脱いでいる。
 作業服の下に隠されていた逞しい体に、美咲は小さく感嘆する。
「ん? 私がブラジャーのホックを外すのがうまいのが気になりましたか?
 これでも中学生の頃は『ホック外しの毅』と呼ばれていたんですよ。指で挟んで、こう」
 毅の話を遮るように、美咲は笑いながら毅の胸元を叩く。
「考えてませんよ、そんなこと」
「すいません」
 悪びれた様子もなく、毅は美咲の長い髪を撫でる。
「でも、いたなぁ……ホック外しの何とか君……
 毅さんみたいに素敵な人なら覚えているはずだから、別人ですけどね」
 クスリと美咲が笑う。
 どこか少女らしさを感じる笑顔。わずかに残っていた緊張も、すっかりほどけていた。
「私も、美咲さんのような女性がクラスにいたなら忘れないはずです」
 美咲の胸に顔をうずめて、毅が言い返す。
 白く柔らかな胸を指先でなぞり、掌で包み込む。
 ゆっくりと揉みながら、舌を這わせ、先端を唇で包み込む。
 美咲は毅の髪を両手で掴み、目を閉じて小さく喘ぐ。
 そのかすかな反応で、毅は美咲の感じる部分に触れていく。
 熱を帯びた手に力が入り、揉みしだかれる両の乳房。
 美咲は首を反らせて声を上げる。
 優しく、それでいて力強い。
 男に支配されることに、美咲はかつてない悦びを感じていた。
 優しいだけでは物足りない。自分は彼だけのものだと実感させてほしい。
「少し痛いくらいがお好きなんですね」
 毅の言葉に、美咲は素直に頷く。
「平凡な日常に刺激を求めて冒険してしまう、あなたらしいです」
 優しくつねり上げられる乳首。美咲は指を噛む。
 毅は美咲の腕を取り、口元から引きはがしてベッドに押し付ける。
「あなたの声が聞きたい」
 毅の唇が、胸から腹へと落ちてくる。
 腰に噛みつき、吸い付いて舐め上げる。
 彼が与えるすべての刺激が、快感だった。
「毅さん……私も、あなたの声を聞いていたいです」
 男の手で紡がれる、力強くそれでいて繊細な愛撫。
 永遠に、この時が続いてほしい。
 美咲は確かに今、恋をしていた。