1st Drink


 2X17/6/12 AM 1:30 天気:雨

 やあいらっしゃい。こんばんは。
 おひとりさまかな。お好きなお席へどうぞ。大人数でなければ、カウンターがいいかもしれないね。あ、荷物は隣の席に置いちゃっていいよ。今日は常連さん誰も来てなくて、お客さんは君だけだから。外は雨だし夜も1時回ってそこそこ遅いし、これから店一杯になるほどは混みそうにないからね。

 早速最初の一杯を聞きたいところだけど、暇なところに来てくれた初めてのお客さんだから何かサービスで一杯出すよ。
 梅雨に入ったばかりでじめじめするからすっきりできそうなものを出そうか。
 君は若いけど、きっと未成年じゃないだろう。お酒も多少は飲めそうだし、バーに来るくらいだから嫌いではなさそうだ。これはあくまで僕の予想で、目は養われてるしそれなりに当たるはず……なんだけど。もし違うのなら、真相は知りたくないから黙っておいてね。

 暑い日にすっきりするならミントだね。ちょっとスースーするけど大丈夫かな? そこ、歯磨き粉とか言わないんだよ。わかるけど。
 ミントのカクテルはざっくり二種類で、ミントの葉っぱを使うのと、ミント味のリキュールを使うのがある。両方使うってのはあるのかなあ。僕は聞いたことないけど、知らないだけかもしれないね。
 モヒートとかだとミントの葉っぱを使って作るから香りもいいし、炭酸でしゅわっとできるし夏らしく涼しくていいんだけどあいにく今日はミントの葉っぱを切らしちゃってるんだよね。自ら提案しといてお前はバカかって顔に書いてあるよ。まあいいじゃない。
 しかたないから今日はミント味のリキュールを使ってカクテルを作ろう。さて、何にしようかな。

 あ、ちなみに僕にお酒のうんちくみたいなものはないから、ためになるような話とかは期待しないでね。ゆるくなんとなくでお酒を語るから、適当に聞き流しながらゆーったり飲んでもらえればうれしいな。
 だからちゃんと勉強してる人には怒られちゃうかもしれない。そういう人は他に素敵なお店を紹介するから、遠慮なく言ってね。

 味はミントと決めたところで、次はロングかショートか決めないといけないね。
 ロングは長い時間かけて飲む用、ショートはさくっと飲む用と言われてはいるけど、ぶっちゃけ好きに飲めばいいと思うんだよねえ。
 ロングカクテルを10秒くらいで飲み干す人もいるし。ショートカクテルはさっさと飲まないと味が落ちるというのはまあ、お酒が好きな人からすれば正しいかもしれない。氷が少なくてぬるくなるからね。そういう慣れている人で三口で飲めとかいう人いるけど、モノによっちゃ結構きつい。個人的な話をすればジンベースで材料が全部酒だとそれはもうきつい。
 なんにせよ自分がおいしいと思える形で飲むのが一番。もうそんな常識はいいからさっさと酒を出せって? まあまあ、考えてる最中に無言じゃ気まずいでしょ。一応ジャズは流してるけどさ。適当な話でつないどくのも仕事なんだ。悪いね。

 なんとなくだけど、せっかくバーに来た以上はそれっぽいおされな感じのお酒を飲みたいんじゃないのかな。
 というわけで今迷ってるのは「アラウンド・ザ・ワールド」か「カルーソー」。
 どっちもショートカクテルで、カクテルグラスという三角形のグラスを使う、きれいな緑色のカクテルだよ。カクテルの画像探したらよく見かけるあんなのが出てくると思っていい。長いグラスよりは多少それっぽいし、君は多分こういうの一杯程度じゃどうということはないと思ったから、このあたりにしてみたよ。

 二つの違いが気になる?
 うん、では作り方から。前者はシェイカーを振る。後者は材料入れて、くるくる混ぜる。
 飲む側からすればほとんどの人はどうでもいい話で、全然気にしなくていい。でもバーといえばシェイカーって感じもあるだろうし、華やかな感じもするからそっちの方がわくわくするかもね。ところが実はシェイカー振るより、混ぜる方が難易度が高い。なぜかって? それは次また来てくれたら話すかもしれないね。と言いつつ僕忘れっぽいから記憶から抹消されてるかもしれないけど。
 
 さて、一番気になるのはお味の違いだと思う。
 前者はジンとパイナップルジュースとミントのリキュールをしゃっかしゃっかして、トロピカルフルーティーふわっふわな感じに仕上がる。おまけで緑のミントチェリーもつけるから、見た目もきれいだ。ジンは入ってるけど、ほんとに入ってるの? ってくらいにしか感じないから、ショートの中でも飲みやすいよ。
 ……とは言ってみたものの、ジン-パイナップル-ミントの配分が45ml-15ml-5mlとか、30ml-20ml-10mlとか、25ml-15ml-20mlとか、色々バリエーションがあるみたいだね。僕が今まで他のお店で当たってきたのは全部ジンの分量を少なくしてるタイプだと思うんだよなあ。うちも甘口派だから少し削ってるし。
 最初の配分はウィ〇ペディアに載ってたやつだけど、個人的にはこれだとちょっと辛い気がするし、ミントが5mlぽっちでおいおいいいのか、と思ったりもする。おそらくこのレシピで作ってるやつに僕は当たったことがないし、僕も作ったことないからよくわかんないや。完。

 ちなみに材料の配分を聞いてもうおわかりかもしれないけど、ショートカクテルの分量はグラスに収まるよう、トータル60ml。基本はね。
 たまにお酒関連の漫画を読むけど、どうみてもそれ専用のカクテルグラスの絵なのに分量が120mlくらいのカクテルが紹介されてることもあって、あれ? ってなることもある。比較基準がないからわからないだけで、きっとちょっと大きめのグラスなんだよね。野暮なツッコミはするもんじゃないね。

 で、ごめん、話がそれちゃった。
 後者のカルーソーはさっきのより甘さが控えめで、ちゃんとアルコール飲んでる感がある。
 まあそりゃそうだ、なにせ材料は全部酒なんだから。
 ジン、ドライベルモット、ミントのリキュール。を、ミキシンググラスっていう混ぜる用のグラスに氷を入れて一緒に混ぜて、うまいこと液体だけグラスに入れて、仕上げにほんの少しだけレモンの果汁を飛ばして香りをつけるよ。ミントのリキュールが甘いけど、お酒の刺激とレモンの香りもあいまって甘さとしてはちょうどいいくらいなんじゃないかと思う。
 こっちは30ml-15ml-15mlで、特にレシピのバリエーションはないような気がする。レモンの香りをつけるつけないは好みの問題だろうけど。
 僕は最初そのまま出す派だったんだけど、とあるお店で香りをつけて出してもらったのが気に入っちゃって。それからずっとこのスタイルだ。

 うん、ここまで話してようやくどっちを作ろうか、といったところだけど。
 話が長くて退屈したって、もう、どうせ暇なんだからいいじゃない。こんな真夜中にこんなひっそりしたところに飲みに来るくらいなんだから、絶対暇でしょ。
 よし、じゃわかった。物足りなかったら追加注文をいただくということで、最初の一杯はアラウンド・ザ・ワールドをお出ししよう。
 準備するね。

 さてその間、このお店のことを紹介しようか。
 ここはショットバー「プロジェクト」。表記は英語でもカタカナでも別に何でもいいんだ。既におわかりの通り、僕ちゃらんぽらんだから。
 いつかお店を開いてみたいなって思ってたら、実際やってみればいいって提案されて、とある知り合いから3年間だけここのスペースを借りることにしたんだ。当時からもう1年は経ったから残りあと2年か。早いもんだなあ。あっという間だ。
 小さな店でね、カウンターは10席、テーブルは2人掛けが1つに4人掛けが2つ。薄暗いオレンジの店内と木を基調とした内装にこだわってるよ。
 で、よく来てくれる常連客が6人いる。もうどれも変なのばっかり。今日は君一人だけど、もしまたここに来てくれることがあるなら、いずれ会うこともあるかもしれない。うるさかったらごめんね。

 ついでに僕のことも軽く紹介した方がいいかな。
 普通自己紹介といったら名前からだろうけど、残念ながら名乗るような名前はない。昔は適当にあれこれ名乗ってたけど、考えるのも面倒になっちゃってさ。
 古くからの常連はそれぞれ当時の名で呼んだりするけど、どう呼んでくれても構わない。
 呼び名が特に思いつかなければ、ベタにマスターとか、そんな感じでいい。
 こんなこと言っといた後でアレだけど、バーのマスターを「マスター」って呼ぶ人は少ない気がするね。特に常連は。
 好きなのはお花と女の子。嫌いなのは酒癖の悪いお客さんと、卵豆腐。
 金髪だから派手に見えるかもしれないけど、人混みが大苦手なインドア派。
 26歳のイケメンだよ。よろしくね。

 さて、長らくおまたせしました。「アラウンド・ザ・ワールド」です。
 世界一周路線の開航記念のカクテルコンペ優勝作品という栄えあるカクテルなのに、今やどれが当時のレシピかわかりませんって、なんだかなあって話だよね。
 ここで紡がれる話は世界一周旅行ほどスケールは大きくないけど、物語の始まりを飾る一杯として、こんなのもアリな気がしてさ。

 今日は雨の中来てくれてありがとう。
 僕のグラス、アイスコーヒーで悪いけど、素敵な夜に乾杯しよう。
sage