ファンシーでふりふりな衣装を着た少女がかわいらしい魔法のステッキにまたがり町を滑走する。アニメのようなことを高校1年生の男子学生であるぼくが小学生くらいの女の子に変身させられ実際にやらされるとは思わなかった。飛ばそうと思えばさらに加速するらしいが常闇の眼下に移るミニカーサイズの車やプラレールサイズの電車、いつもは見上げるようなビルを、逆に見下ろすことができるようなところで必要以上に飛ばす必要はないと感じた。何より、自分に当たる風が思いのほか強く、スカートになれないとかしたから中身を見られないだろうかとか、そんな些細なことよりも横風に流されないようにとか跨っているステッキから絶対に手を放しちゃいけないとか、これから離陸する飛行機とかヘリコプターはいないかとか命に関わるようなことに神経を集中させていた。
 初のフライト(これであっているのだろうか?)ということもあってあたふたしているうちにいつの間にか地上の灯りはまばらになっていき黒とは違う暗い色の凸凹が目立つようになってきた。
(朧ちゃん慣れるの速いんだね。お姉ちゃんびっくりしちゃった)
「ぼ、ぼくをちゃん付けで呼ぶのはやめてください!それにお姉ちゃんだなんて」
 と否定すると同時に動揺してしまったのか上空でふらつきバランスを崩しそうになる。大慌てで態勢を立て直そうとするぼくをよそに脳内に響く声は楽しそうに、そしてからかうように(お姉ちゃんが付いてるから大丈夫よ。がんばれ♡がんばれ♡)と語りかけてくる。
(あ、それと……あんまりお股をステッキにこすりつけちゃダメよ……ここできもちよくなっちゃったら後が大変だから)
 いやらしく響く忠告の声、恐らくだいぶ顔を赤らめただろう。再びステッキの操作がふらついてひどい目に会うことになった。



「ほ、本当にここであってるんですか?」
 昼間であれば太陽の光でさえ遮ってしまうくらいに天然のドームを形成するほど、そして人の手は加わっていないだろうと思える木々が乱立する樹海の中に僕たちはいた。耳を澄ますと獣が枝を折りながら闊歩している音なのか葉が風に揺れる音なのか、遠くの滝の音なのか、様々な音が入り込んでくる。
(こっちから探さなくても大丈夫。どうせ向こうからくるわ)
 さっきまでと違い真剣な声色で語り掛ける梓さん。緊張で溜まった唾を飲みこんだその時、遠くから足音が聞こえる。1つではない、恐らく群れでやってくるのだろう。恐ろしいことにそれは確実にこちらに向かってくる。薄暗い闇の中徐々にはっきりしてくるシルエット。その正体は……
「し、鹿かぁ……」
 内心は恐怖感が支配していたが思わず安堵していた。鹿もこんなところに人がいるとは思わなかったのか、先頭を走っていた鹿は一瞬速度を緩め、緩やかにカーブし、それに続いて後ろの鹿達も続いていく。1匹、2匹、3匹、そして最後尾が僕の横を駆け抜けようとした瞬間だった。突如現れた白い塊たちが鹿に襲いかかる。苦悶の表情をしながら暴れるも徐々に弱っていく哀れな鹿。
(今回の相手はこいつらのようね)
 ぼくはその言葉に反応できないでいた。なぜなら今目の前で起きている現実が信じられないからだ。すでに動かぬ肉塊となった物を食らう動物の形をした白い塊、今咬み千切り飲み込もうとした肉は己の糧とならずそのまま地面に落ちていく。何故なら彼らは動物の、犬の骨格をしたなにかであったからだ。
「うわ、本当に……」
 梓さんに聞かされた通りだ。丑三つ時の化け物退治、ただえっちがしたくておかしなことを言っていたわけじゃなかったんだ。まさか少女になるとは思わなかったけど。
(ほら、ぼーっとしてないではやくやっつけちゃって)
 いや、やっつけろと言われても。幸い骨たちは僕に関心をもっているようではなさそうで捕えた獲物を悪戯に蹂躙している。さて、どうしたものか。
(ほら、魔法のステッキに念じて武器を出すのよ)
 こくんと頷いて言われたとおりに念じてみる。ぼくが念じたものそれは……
(へぇ……朧ちゃんミリタリー趣味だったんだ。)
 ふりふりファンシーな衣装とは正反対の黒く鈍く武骨なアサルトライフル。ちょっと本物と違うのは少女体型に合うようにサイズが一回りに小さくなっていることだ。銃床を肩の筋肉の窪みに押し付けて狙いを定める。安全装置を解き連発に合わせゆっくりと引き金を引くと無数のピンク色の魔弾が轟音と共に骨の怪物たちに襲い掛かる。
「……やったか!?」
  弾を撃ちきる直前辺りは銃の反動に負けて狙っていたところよりも上に放ってしまったがそれでもあの数を喰らったらただでは済まないはずだ視界を遮る黒と茶色の煙。それが晴れる前だった。白い塊が3つ、こちらに向かってくる。
「ふえ~ん、全然聞いてない~!」
(すぐに武器をステッキに変えて!)
 言われた通りにアサルトライフルをステッキに変えると勝手に身体が動き出す。両手両足を開き白い塊に向かって大きく大の字になる。なにが起きるのか不安で、目を閉じようにも開けられたままである。
(シールドはこんな風に張るのよ。じゃあ、また自力で頑張って)
 どうやら梓さんは脳内に語り掛けるだけでなく僕の身体を意のままに動かすことができるらしい。実際、本当に犬の形をした骨はぼくの目の前で弾かれ後ろに吹っ飛んでいた。
「それにしても、さっきのじゃダメだったら次はどうすれば……」
 たぶんやつらの骨を砕くにはさっきの武器では威力不足なのだろう。だったらハンマーか?でも3対1の勝負に近接武器は不利だ。なんなら……。そこでぼくが念じたのは馬鹿でかい大砲だった。幸い魔法の力のおかげで、多少の重さは感じるものの充分に操作はできる。
「吹き飛べーーー!!!」
 先ほどよりも巨大な魔弾に直撃した骨達は周りの木々と共に粉々に砕け散っていく。視界が開けてくるころには次の攻撃を警戒する必要はなかった。
「ふ、ふわ~、つかれたぁ」
 思わず地面にヘタレこむぼくにねぎらいの言葉をかけてくる梓さん。せめて、まるでちいさい妹をあやすような感じで言うのはやめてほしかった



「それにしても本当につかれたよぉ」
 再び魔法のステッキに飛び乗り梓さんの部屋に戻ってきたぼく。本当に帰れるのか不安だったが、梓さんに励まされながら飛び続け、見知った町の灯りを見つけた瞬間は涙が出てくるほど安心した。本当に帰れて良かった。でも気になることがある。
「それにしても梓さん、気になることがあるんですけど良いですか?」
(ふふ、なにかしら?)
 若干、その声色に艶を感じたが無視をして続ける。
「その、元に戻るにはどうすれば……ひゃぁ!」
 身体が固まった瞬間に嫌な予感がしたが、現実を受け入れる前にそれはやってきた。操られた右腕がスカートの中に潜り込み純白の絹糸(上品に言っているが少女パンツのことである)に覆われた無垢な割れ目をゆっくりと愛撫する。
「いや!わ、悪い冗談ですよね?」
 すると、絹糸を人差し指でぐぅ~っと割れ目に押し付けてくる。
(お姉ちゃんが教えてあげてもいいんだけど……朧ちゃんはどうしたい?)
 じわぁっとパンツが湿ってくるのを感じる。でもそんなのだめだ!おかしい!そうは言ってもぼくに残された道は1つだけだった。
「や、やります……自分でできます」
 すると、さっきまで自由の聞かなかった身体が解放される。
(ふふ、朧ちゃんがどんな反応するのかお姉ちゃん楽しみ)
 うぅ、こんなのってないよぉ。えらく興奮している梓さんとは正反対にぼくは不安と恐怖でいっぱいだった。