ジジイのちばあちゃん、時々イノシシ

 事務室でパソコンを叩いていたら町内会の爺さん連中がなだれ込んできてあっという間に会議を始めた。議題は裏山の古道の普請に関してらしい。他所でやれよと言いたくなるが公共施設である以上文句は言えない。金の出所は彼らの税金、ああ悲しきかな公僕の身。
「うるさくしないでくださいね」
 急須に茶っ葉を放り込みお湯を垂らしながら、最初の挨拶は笑顔で。
「何やお前この野郎、公務員の癖にそんな口きいて許されると思っとんのか」
「うるせえクソジジイ、公務員の何が悪いか」
 二言目は遠慮もしてやらない。お茶菓子はせんべえしかないが勘弁して貰えるだろう。
 四人分のお茶を用意してから応接用のソファでくつろぐ頭数を数えて一人足りないことにはたと気付く。
「ちょい、シゲさんどうしたのさ」
「そうだ、ちょいと聞いてくんなよ。さっきイノシシが出たんだよ」
「どこさ」
「薬師さんの裏手だよ、ほれオワリさんとこの畑の隣の藪の中から」
「はあ、じゃあ撃ちに行ったんかい」
「それが何匹かいるみたいでよ、応援ねえとたまらんってさっき猟友会に声掛けに行った」
「そりゃ難儀だね」
「取りあえず役所に連絡しといてくんなさ」
「アイヨー」
 と頃合いに冷めたお茶をトントンと彼らの前に出してやるとありがてえと拝み手である。
「よいよい、苦しゅうないぞ」
「お前ホントよう、ここじゃねえとクビだぞクビ」
「ここだから言ってるんだってば、好き好き大好きオジイサマ」
「かあこんクソ、鳥肌立っちまうわ」
「喜べばいいじゃんよう」
「喜んでるよ、ハナダさんのは照れてんだってば」
 カッカッカッと笑いが溢れハナダのじいさんはたまらなそうに頭を掻いた。
 いつまでも話し込むわけにもいかない、庁内LANを起動して環境部にイノシシのメールを送る。オワリさんちの住所は――


 爺さんズの普請会議は昼過ぎまで続き私は合計で八回もお茶を入れ換えた。ファック。
 一息吐こうと表の喫煙所で煙を吹かしていたらサワヤのばあちゃんがてこてこ杖をついて歩いて来た。手に抱えた風呂敷包みが哀愁を誘ったので咥えタバコで歩いて行って持ってやる。
「悪いねえ」
「気にしなさんな」
 今日はどうしたと尋ねると自分の父親の出生から死亡までの戸籍が欲しいという。多分江戸だなと私は察した。何でも相続の関係でミスがあり父親名義の山が未だに残っていたそうな。
「どの山?」
 八方見渡す限りの山の中、青く澄み切った空でも眺めるように手で日差しを遮りながら私は尋ねた。
「あれだよ」
 ばあちゃんの萎れた指は小学校から少し行った坂田商店の方を指しているけれどもどれがそれかは解らない。坂田商店の前の蛇みたいに曲がりくねった道を軽トラが走っているのが見える。
 陽に向けて伸びをすると背骨がバッキボッキ鳴って首を左右に振ったらゴリゴリ鳴った。
「どれか解らんわ」
「まあ、どれも同じさ」
「そうだねえ」
 事務室で端末を立ち上げてからばあちゃんに申請書の書き方をレクチャーする。底地番と住居表示が一緒なのは珍しい事だと前に役所の人が言っていたが、字の直後に三ケタの番地がついてくるようなクソド田舎の出張所に流されてからむしろ違う人を見た事が無い。
「アンタお見合いせんかね?」
「せやな」
「真面目な話やよ?」
「さよか」
「相手は社長ぞ」
「それ前にも聞いたわ」
「会うだけでも会ってみんか?」
「いいからお父さんの名前早く書いてよ」
 ばあちゃんはしぶしぶと筆頭者欄に父親の名前を書いた。惣左衛門って何時代だよとは思うがここいらの戸籍は割とこんなもんである。どうせ生年月日検索では出てこないので地番をポチポチ入力すると出るわ出るわ、改正原戸籍という名の視力検査。目についたものを片っ端から出力して横に並べる、その後ばあちゃん本人に見せながら抜けが無いかを確認する。万一抜けていたら私の落ち度だ。ばあちゃん本人は役所にチクったりしまいがばあちゃんの子どもや孫は解らない。都会にかぶれた人間は機械のように心が無い。
 それから小一時間もご先祖談義や昔話をしてからばあちゃんはようやく腰を上げた。
「この風呂敷包み、ここに送って欲しいんよ」
「明日でいい?」
「もちろんよ。悪いねえ」
「アイヨー」
 住所の書かれたメモ用紙と一緒に預かろうとすると突然ばあちゃんが包みを解いてタッパーに入った牡丹餅を私に押し付けた。
「渡しそびれる所だった」
「好き好きばあちゃん超愛してる!」
「馬鹿言ってないでさっさと結婚しんさい」
 困ったように言うばあちゃんは本当にかわいくてほおずりしてキスしたくなる。


 カラスの鳴き声に引き寄せられてモニターから視線を外すと茜が事務室を焼いていた。窓口を閉める用意をしていると玄関の向こうが騒がしい、手を止めて表に出ると駐車場にごみ収集用のパッカー車が止まっており、猟銃を担いだ男達が輪を作っていた。
「シシ肉持ってくか?」
「ここで捌く気?」
「馬鹿言えちゃんと小屋でやって来たわ、載ってるのは皮と骨だ」
「でも料理出来ないよ」
「しゃあめえそしたら明日唐揚げにして持ってきてやる」
「うひょー、流石シゲさん男前」
「撃ったもんは供養してやらにゃあよ。明日の昼にノブさんたちと来るからよう、米だけ持ってこいや」
「アイヨー」
 そうすると明日は昼から酒盛りだろうか、事務室が酒臭くなるのは歓迎できないが仕方ない。なんと言っても彼らは納税者である。
 パッカー車に乗っかったシゲさんたちを見送ってから窓口を閉め、施錠の確認をする頃にはもう星が見えた。星座なんてオリオン座以外解らないけれど、やはりここの星は綺麗だと思う。
 これから二時間もかけて街中まで戻るのは一苦労だが、ここの仕事はとても楽しい。(了)
コメ欲しいけどマイペースに書くのも楽しいから適当に書くわ
リメイクするって言ったけどなんか適当に書いちゃったのもあげることにしよう
ふとこういうのを書きたくなった
書きたいものが書けているかは不明だが

コメントありがとうございます。
[2:Salut d’amour] それじゃあ古米だけどウチのコシヒカリをどうぞ <2018/02/14 22:10:41> ChEEDxg/P
ガツガツムシャムシャ、ありがとうごぜえます
最近米食ってないなあ(ダイエット中)

[1] クソ甘いけど好きです <2018/02/14 00:09:38> cLGmwDK/P
ありがとうございます
もし本スレの方だったら気が向いたら戻っておいで(別の人だったらすんません)
少なくともワイ読んどったで
sage