須藤真昼:いつもの始まり

 雨宮篝とかいう馬鹿がいる。
 たぶん、人間。
 たぶん、女。
 たぶん私と同じ十七歳で、きっと恐らく高校生。
 星座占いで明らかになったラッキーアイテムを悉くゴミ箱に放り込み、すれ違いざまに肩がぶつかったことも逐一ノートに記録する筋金入りの偏執狂。
 己の内面を他人に晒すなんて愚か者のすることだからと言ってロールシャッハテストを拒んだ篝。知り合いがベジタリアンだとわかったらどんな手を使ってでも生き物の血肉を胃袋に送り込まなければ気が済まないサディストでもある。
 得意技は頭突きだ。何かが思い通りにならなかった時、篝は必ず頭突きをくれる。壁とか床とか天井とか、不自然なくぼみがあればそれは篝がごっちんさせたのだと思ってくれて間違いない。
 たぶん、篝に趣味はない。出来るだけ造形が気持ち悪い虫を見つけるべくたまに樹海に潜ったりもするけれど、一週間も餌を与えず虫かごのなかで朽ち果てさせることに歪んだ喜びを覚えているわけでもない限りは、いつも単なる気まぐれでしかないし。
 篝の好奇心は、いつだって仮想通貨のように激しいけれど、朝ドラのような連続性はまるでなくて、その場しのぎのデタラメばかりだ。
 だから、雨宮篝は――曖昧だ。それは芯がないという意味でもあるし、芯があろうと芯ごと曖昧にしてしまうのが篝特有の能力なのだという説明でもある。
 だから私は、篝のことを話すとき、いつも「たぶん」――と、そんな言葉を遣ってしまう。
 幼稚園の頃からの付き合いなのに、ふたりで過ごした時間は家族とのそれより長い気がするのに、それでも私には篝のことがわからない。
 そういえばってな感じで。
 いつから私たち、一緒にいるんだろうね、とか。
 どこで私たち、知り合いになったんだろうね、とか。
 どうして私たちは――友達になれたんだろうね、とか。
 いくらコインを積んで知恵袋に訊ねてみても、ベストアンサーは知らない誰かの投票で決まって、そこに私の納得は介在しない。
 だから、私は提案してみることにした。
 いっそ、この関係を解消してみたらどうだろうって。
 そうすれば、これ以上、必要以上に思い悩むこともなくなるから。
 お互いにとってベターな選択なんじゃないかって。
 心のなかで言葉にしてみた。
 口には出さない。
 出したら、多分、本当に終わってしまうと思ったから。
 たぶん、篝は泣くだろうな。
 たぶん、篝は怒るだろうな。
 たぶん、篝は頷くだろうな。
 そして、たぶん、私たちが交わることは二度とない。
 蜘蛛の糸よりも脆い線が、私と篝を結んでる。
 だけど、それって酷く普遍的で、私たちにしては上出来なくらいありきたりだなって、そうも思うから。
 だから、篝に対する意地悪は、胸の内にしまっておくのだ。

 ところで、篝は承知してる?
 くそったれの夏休みも今日で終わり。
 明日からはまた、楽しい楽しい学校生活が始まるんだよ。
 …………。
 わかってるよ、篝。
 どっかの地球外人類と戦争にでもなって、学校が焦土と化してくれないかなとか思ってるんでしょ。
 馬鹿だな、篝は。
 学校はあるよ。
 明日も、きっと明後日も。
 戦争なんてしない。
 したって地球が圧勝するし。
 もしも学校が壊れてなくなるなら、
 それは――篝が壊したからだ。