雨宮篝:バルジ大作戦

 冷蔵庫を拾った。
 捨ててあったというよりは、道の真ん中にどてんとあって、どこかに向かってずりずり移動していたから、多分、持ち主のもとに帰ろうとしていたんだと思うんだけど、ちょうど我が家の冷蔵庫が寿命を迎えたばかりだったから、「これ、あたしンだ」と言って紐でくくって天使に持ち帰らせた。
 冷蔵庫のなかには、うにょうにょと蠢く肉の塊があった。電源も入ってないのによく冷えていて、三〇分に一度、じゅるじゅると粘着質な水音を立てながら暴れ回る。捨てちゃおうかと思ったけど、折角だからアサガオを枯らしたばかりの植木鉢にぽすんと植えて、あたしの手で育ててみることにした。
 あたしは肉塊にバルジって名前をつけてあげた。バルジに水をあげると、きょえーと醜い悲鳴をあげる。嫌なのかなって思ったから、代わりにコーラをあげてみたら、ぎええと切ない呻き声をあげて萎んでしまう。試しにあたしの血を一滴垂らしてみたら、薄紅色の光を放ちながら小さな声できょーんと吠えた。
 バルジを拾ってから一週間くらい経過した頃、天使がバルジに殺鼠剤を与えているところを目撃してしまった。とっ捕まえて話を聴くと、どうやらあたしの関心がバルジにばかり向いていることが不満だったらしい。これまでも黴びたパンや、虫の死骸などを与えていたことを薄情した。
 けれどバルジは却って元気になって、天使をむしゃむしゃ食べてしまうと、心臓みたいに全身をばくんばくんってうるさく鳴らして、ばばばばと下品な音を立てながら人間じみた腕を生やしながらあははと笑った。
 その翌日、牧場から牛の血をもらって帰ってくると、植木鉢からバルジの姿がものの見事に消えていた。
 なんだ、アサガオの二の舞かって落ち込んだけど、キッチンの方から良い匂いが漂ってきて、見知らぬ女の子が「おかえり、ママ。ちょうど晩ご飯が出来たとこ」ってあたしに料理を運んできた。
 そう。
 要するに、その子がバルジ。
 とっても可愛い、あたしの娘。
sage