『封じ手はやはり8六歩。
「以下同歩、同飛、7七銀、8二飛、8七歩と作業を終えた時に1三角があります。先手はここで4六を受けるか、1五歩と突いてから4六角を待って受けるかですね。6九玉としていない事を考えると、1三角に7七の銀を6八へ戻して4六角に当てにいくのもありかも知れません。これなら角道も通るので4五歩から手を作れる」
 ――そろそろ差が出てくる頃でしょうか?
「まだ明言はしませんよ。外したら色々言われるんだから」
 吉川八段はこちらも先を読んでいたらしい、ガッチリ受けられてしまった。
 そこで矛先を変えて島津七段に尋ねる。
 ――1三角から4六角をどう受けるでしょう?
「1五歩から4七金ですかね。2四角と引かせて1四歩……でも、4五歩とされてどうも良くない感じがする」
 ――では、島津七段は現局面後手持ちということで?
「また巧いんだから……でもまあ、4七金もあまり良くは見えないし、1五歩と突かずに6八銀と戻すのかな……でもこれじゃあ、わざわざ銀上げたのに、あっち行ったりこっち行ったり、言いなりな感じでムカつきますね。自分なら1五歩4七金かな、多少損しても2五歩で指せる気がする」
 ――ムカついたら1五歩から?
「そうっす。竹中先生も人間なんだから、面白くない手は指したくないでしょ」
 島津七段らしいと言えばらしい答えなのだが、どうにも笑ってしまう。ムカつく、面白くない……そんな感覚で指し手を絞る人間がプロの第一線で戦っているという事実。恐るべきはその剛毅剛直の実現を可能とするだけのキャパシティか、或いはそれくらいの事を言ってのけられる逸材でなければ奨励会の壁は突破できないという事だろうか。
 島津七段に限らず、こういう感覚で指し手を決めるプロは意外と多い。
 竹中と長い付き合いのある小寺二冠曰く、
「あの人もなあ、人前では優等生やっとるけど、中身は結構やんちゃやで」
 ――何か、エピソードなどはあったりしますか?
「あー……小学生名人戦の時の話やねんけど。まともにやったら敵わんやろなって、初手8六歩と指してみたことあってな」
 ――喧嘩売ったんですね。
「そしたら彼、顔色一つ変えずに2四歩やもん」
 ――投げつけた手袋を拾って投げ返された、みたいな感じでしょうか。
「こりゃ敵わんって、そこからは普通に指したわ」
 ――結果は?
「その時は勝ったけど、その後暫く勝たせてくれへんようになってな。あの人は怒らすとホンマ怖いで」
 なるほど、「ムカついたから1五歩」、あるかも知れない。(続く)』


 ――先同歩、後同飛、先7七銀、後8二飛、先8七歩、後1三角――