『先手は1五歩から5七銀と打つ手を選んだ。控え室では、持ち駒の銀を打つのは楽しみが無くなるという理由から、あまり検討されていなかった手。そこから7七の銀を上げて6筋の位を取っている歩を牽制、角道を通し左銀と右桂で攻めていく構えのようだ。
「取り敢えずタダで取らせる訳にもいかないし、なんかで受けるとして。どっちみち4筋歩で突かれるんだから今かわしておいた方が得、とすればここは5四銀ですかね」
 控え室の検討は一致している。5四銀後の変化としては4四角から3三桂、2五歩、1三角、4六歩、8六歩、同歩、同飛、8三銀。或いは5五歩から6三銀、6五銀となれば7三桂と後手が右桂を跳ねていくようなものも検討されている。
「感触としては現状互角、強いて言うなら若干後手良し――」
 と、小寺二冠から。ようやく形勢に関する発言を聞き出せたが、
「――でもひょっとしたら先手が良いかもしれんなあ」
どっちですか、とでも言わせたいらしい。チラッチラッとわざとらしくこちらを伺う。
「後手が良いです」
 ハッキリと後手持ちを宣言したのは慈乃四段ただ一人。
 ――力強く断言、と書いても構いませんか?
「力強く後手良しです」
 このやりとりを聞いて、
「そうか、こっから先手良くなるんか」
京極九段が乗っかると、控え室は爆笑の中で先手有利の変化を検討し始めた。(続く)』


 ――後5四銀、先7二歩、後同飛、先5五歩、後6三銀、先6五銀、後3三桂、先5四歩、後同歩、先4四角――