面白い、乗ってやる。そう言わんばかりに、今までのどの駒音よりも高く響いたのとほぼ同時。ぶつん、と、大きな音だった。それは響自身の耳にも届いた。
 ぬるりと口周りを流れていた生温かい感触がやがて手の甲に落ちた。唇の隙間から入り込んできたのは鉄の味である。
「浅井七段……血が」
 既に記録係の声は耳に入らず、
 ――後6四玉――
下がることなく躱してから、無意識の行動だった、盤の手前に置いていた扇子を手に持つと、滝のように流れ出る血も気に留めず勢いよく振り開く。
 されど無骨に描かれた常住死身の四文字は今更に見ることもない。