『先手投了後、解説会場では読み切れず、対局終了後のインタビューで竹中本人から確認することになった。
 まず6八銀に8九玉と躱す場合は、8八歩、同金、7九飛、9八玉、8九銀、同金、同飛成、同玉、8八銀、同玉、7九角、7八玉、6九銀不成、6七玉、6六金の十七手。
 6八銀に同金とする場合は、5九飛(後手が6四玉として6三の歩を払わなかったのはこの為、先手は歩合が出来ない)、6九銀、同飛成、同金、同桂成、同玉、6八銀、同玉、5七銀――以下主な分岐例を二つ示す。
 5七銀に5九玉とした場合は6八銀打、4九玉、2七角打、3八銀打、4八金打、同金、同銀成、同玉、5七歩成、3九玉、4八金打、2八玉、3八角成、1八玉、2七銀打、1七玉、1六銀成、1八玉、2七馬、2九玉、3八金の三十三手。
 5七銀に同金とした場合は、同歩成、同玉、5六金、4八玉、5七角、3八玉、4七金、同玉、4六銀、5八玉、6九銀、5九玉、5八歩、同角、同銀不成、同玉、6八金、4九玉、5八角、3八玉、4七角成、2八玉、3七銀成、1八玉、2六桂、1七玉、1六歩、2六玉、3六成銀の四十一手。
 他変化含めて、全て間違いなく即詰み。
 一見タダの所に放り込む6八銀は竹中も全く考慮していなかったとのことだが、これに関しては指した浅井を誉めるよりない。終局後は感動で目に涙を溜めていたソフトの中年男性にも尋ねてみたが、恥ずかしそうに、勘弁してくれと顔を赤らめながら、あの時点でも悪手と判断していた、とその時のデータを見せてくれた。評価値が先手側に六百傾いて先手勝勢(二〇〇〇以上で検討を打ち切るらしい)。
「これからは参考程度に眺めることにするよ。アテになる・ならないの問題じゃなくて、ソフトの数値で判断するよりも楽しい見方を教えて貰ったから」
 それが良いだろう。将棋オタクがまた一人誕生したことを私も喜ぶ。
 ちなみに、反省した彼は局後プロの方々に自分から頭を下げに行き、当然大半のプロは冷めた視線を送っていたが(本人はそれも覚悟の上だったろう。でなければ筋が通らない、と言い張るような単純な性格だった)、ある意味でバカの代表とも言えるような性格をしている島津七段がその場で白扇に揮毫してプレゼントした事も、エピソードとして付け加えておく。
 5七桂からの読み切りに関して、本人のコメントが取りたかったが、出血がひどく対局後はすぐに医者の元へ向かった為に聞けず。三時間ほどして、体調が落ち着いた後に改めて聞いたところによると、ハッキリと読み切っていた訳ではなく、感覚として詰みそうだというものに頼って最後まで進めたらしい。それでも、何も知らせない状態で本人に投了図以下を指させてみたところ、全ての変化を完璧に指してみせたのだから完勝だろう。
 始まりから終わりまで、正しく将棋史に残る神憑り的な一局。
「これから暫く楽しめそうです」
 そう語った竹中の笑顔の裏には、浅井に劣らぬ恐ろしい気迫が感じられた。(終)』