それは自傷にも似た手だった。たとえば、4七歩成同玉に3六角と打ち、5七玉以外は6九角成で打ったばかりの金がタダ。5七玉でもやはり6九角成と角を切って同金に4六金、ここで同馬とは出来ないので6六玉、7六銀成同玉から8七歩成が必死となり、先手の持ち駒は角と銀で後手玉が詰まない為、後手の勝ちと見える。
 自らの圧倒的終盤力に対する評判を逆手に取ったブラフか、それとも相手を動揺させる為だけに放った意味の無い手なのか……しかし、それらは全て違うだろう。
 今回の屈辱を決して忘れない。
 そのメッセージを、自分自身に刻み込む為の、盤前の相手に伝える為の、その為の手。そう解釈するのが、一番正しいように思われる。
 驕り高ぶった王者は決して選ばないであろう、真に強きを求める求道者の、修羅の一手。
 ――後4七歩成、先同玉、後3六角、先5七玉――