二階堂は考慮するそぶりも見せずに横歩を取った。
「ここで後手に与えられる選択肢には、3三桂、8八角成、そして3三角という、三つの代表的なものがありますね。ただ、最近のプロの将棋では後手が敢えて3三桂や8八角成を選ぶ理由が薄くなっているんです」
「ほう、どうしてだ。8八角成から相横歩で飛車角総交換ってのもオツじゃねえか、派手だし。やってくる人少ないけど、俺は好きだぜ」
「取るばっかりな人間は適当な事言えて楽ですよね、本当に」
「そもそも普通に指せば取られねえ歩だからな、矢倉と角換わりの二択を相手に選ばせてやるのが後手の正道だよ」
 横歩後手を滅多に持たない銀乃介の、随分と偏った言い分だった。コメント群は笑いに溢れ、千代は呆れた顔を隠せない。
「まったく……話を戻しますが、選ぶ理由が薄くなったというのは、横歩取りで元々優秀とされていた3三角で、更に優秀な形が発見されたからなんです。なので、今日もその形になると思うんですが」
 言い合っているうちに手は進み、
 ――後3三角、先3六飛、後2二銀、先8七歩、後8五飛――