酔いどれの詩






 グラスに注いだ酒をだ おい くいっと煽ってため息ひとつ

 そうしてほっと一息吐く大人の顔を盗んでいくことが

 一人前の男になるってことだ と むかしのおれには思えたもんだ

 それがどうだ ええ 呑めば呑むほど苦痛はいや増し

 せっかく滑り込めた環の中で 愉快な笑みこそ頭痛の種だ

 接着のゆるんだ頭蓋の中で お節介な警鐘が鳴り響く

 このおれが どんな思いで 人間面しているかも知らずにだ





 金を置いて立ち上がり 愛想笑いで家路につく

 たったそれだけが反吐を出すよりむずかしいこの世は貴族の箱庭よ

 いろんな些事が小さな法で おれにはそれが眩ましい




 ふつうになれないあらゆる下戸の丸い背中を 胡乱な別れが追い立てる

 真夜中だ 雨さえ降って 鉄のような夜道をだ

 情けに餓えた酔いどれが歩いていくのは まさに喜劇でちゃんちゃらおかしい

 だが おれのまなざしだけは

 酔いも苦痛も跳ねつける 真の鉄火の塊だ

 たとえ

 息さえ凍る道筋を だれにも支えてもらえなくても

 雨に濡れたアスファルトを 街灯がやさしく照らしてくれることが

 おれには染み入るほどにありがたい

 たとえ

 おれの歩く道筋に あかるい光も澄んだ水さえないとしてもだ

 あの割れ鐘のような ひとの笑い声がないと約束してもらえるなら

 おれには泣き出すほどのよろこびだ




 そうとも おれは 下戸中の下戸

 最悪の酒気は 人いきれ かかなる笑い それる目線に 空虚なことば

 グラスに注いだ酒を くいっと煽り 一息吐く

 それだけのことが おれにはできない