誰もいない町を桃井と歩く。
 なんの音もしない。初夏だというのに虫の鳴く声もせず、歩いている人もおらず、鳥も飛ばない。
 真っ白な斜光が切り取った影が交錯する車道を、車線も気にせず歩いていく。
 信号は明滅を繰り返し、やがて寿命を迎える。
 とりとめのない話を桃井としながら、俺は結局、桃井の話を半分も聞いていない。
 そういうやつなのだ、俺は。
 時折、話を振られるとかえって困る。
 俺にはするべき話などないから。
 固い意志など持っていても気苦労や大損ばかりかさを増やすだけの毎日を十七年間も切り抜けてきて、とうとう俺には話すべき言葉もなければ、保つべき思想もない。
 桃井が、どこか残念そうに見えるが、それもきっと俺の勘違いなのだろう。
 すべては終わったのだ。だから、終わった人間である俺が何かをする、何かを言う、何かを思うなどというのはおこがましいことなのだ。
 もう何も考えなくていい。
 手元のカメラで、撮るべき景色を探せばいいだけ。
 それだけの簡単なお仕事。
 俺を頭の上から押さえつけてぐちゃぐちゃに潰してしまおうとしていた未来はネズミのような人間どもと一緒に消え去った。
 後には何も残らない。
 カメラを持って、行くアテもなく、街をさ迷い歩く。俺たちこそがまさに陽炎のよう。
 たゆたうだけの幻。
 観測者のいないそんなものになんの意味がある?
 ないのだ、何も。
 張り紙のない街を歩く。忘れ物のない街を歩く。
 触れたら滑ってしまいそうな無機質な世界。
 どこを向いてもおんなじだ。
 何もない。
 だから、俺は桃井に聞いてみた。
 いったいどういうところを写真に撮るつもりなんだと。
 そうしたら桃井はこう答えた。
 それはあなたが決めるんでしょ? と。
 ああ、そうか。
 そういうことか。
 手元のカメラの重みが増したような気がした。

 何も決められない俺に、写真など撮れるはずがない。
 何も選ばなかった俺に、何かを決められるはずがない。
 もう終わったのだ。まさに。
 これからずっと、シャッターを切られることのないカメラを抱えて、俺は彷徨う。
 どこへいけばいいのかも分からずに。
 なにをすればいいのかも分からずに。
 世界の終わりか、確かにそうだ。
 終わらせることすらできないなんて、
 本当に、終わってる――……




 FIN