闇色のペン


 闇色のペン。俺はそれを手に取った。なんの変哲もない普通のペンだ。それを使えば、どんなものでも書けるようになるという。夢と希望のファンタジー、怪奇とスリルのミステリー、愛と真夏のジュブナイル。なんでも書けるというのだ。俺はそれを手に取った。するとみるみる書けるようになった。書ける、書けるぞ。だがそれは少しずつ俺の肉を喰らっていって、俺を細く醜く痩せ衰えさせた。けれど書き始めればやめられない。書ける、書けるぞ。俺は何枚もの紙をびっしりと文字で埋め尽くしては背後に放り続けた。いつの間にか足元は紙切れでいっぱいだ。それでも俺は止まらない。誰かが俺を呼ぶ声がする。本当にそうだろうか? 窓ガラスに映っているのは俺だけだ。狂気に駆られた俺だけが、一心不乱に白紙にかじりついている。ああそれでも俺の腕は止まらない。どんどん積み重なっていく物語が、俺の身体から溢れる妄想が氾濫していく。誰かに止めて欲しい、けれどこのペンを手から放しても俺には何も出来ないのだ。
 俺の部屋のドアは開かないのだ。